第7話 無愛想
「というのが本校の理念で…」
うわお。よくあるクソみてえなガイダンスの。害ダンスの見本じゃねえか。クソかな。
クソみたいなガイダンスなんだからクソで当たり前なんだけど、表面上はうんうん適度に頷いて真面目を演出してる。一応聞いてるだけまともな気もする。戸張寝てるし。
(こいつ今度張り倒そ。)
謎の決心を冬樹にさせ、そうしてもう一つのことを思い出させる。
(あ、そういえば。隣のやつと話をするっていう計画建てようとしてたんだっけ。こいつ無愛想だからどうしようって考えてたんだよな)
「建学の精神を大事にしていきながら、文武両道を目指していって…」
チラっと左側を盗み見る。ただし、首動かすとばれるので、体固定して、眼だけを動かすように。
「・・・」
静かに聞いてる...?いや、まぁ、騒ぐようなアホはいないだろうけど。一切身じろぎもせずに真面目に聞いてるとか、こいつマジか。真面目ちゃんか。見た目とのギャップよ。
ちなみに藤原と言っていた隣の席のこの男。ぱっと見の見た目は少し太めの、座り方はまさしく、「ふてぶてしい」を形にしたような男だった。まぁ、そりゃ真面目には見えないよね。
とか思ってた冬樹にとっては割と衝撃...でもなかったけど、まぁ、こういうところではきちっとするタイプなんやな。奥の方のクレイジーこと本田もめっちゃ真面目そうにしてるし。あいつ眼鏡かけてて、ぱっと見だけなら真面目に見えんのに、あれだったからな。人は見た目によらねえわ。
と、少しだけ奥のほうの本田を見てた目線を少しだけ藤原に戻すと
「...ZZZ」
「・・・・・」
「入学した皆様におかれましては...」
「ZZZ」
「・・・・・・・・・」
はあああああああ!!!!!?????
寝てやがったこの野郎!?ふっざけんな!ちょっとは真面目にふるまえるんかこいつ、ふてぶてしいとか思ってごめん、敬語とか使えなさそうとか思ってたわ、すまん。とか思ってしまったこっちの気持ちを返せ!ごらぁあああああああ!!!!!
「というわけで新入生へのガイダンスを終わり、休み時間の後、部活動の説明会の方を行う予定ですので、10分後にもう一度席の方についていてください」
「「ZZZ...!!」」
ここで起きんな!なんで「休み時間」に反応して起きれるんだよ、戸張と藤原は!?どこでそんな訓練を積んできたんだよ!
「あ、冬樹、おはよう」
「・・・」
当然の如く無言の腹パン。いや、殴ったの座ってたから、腹じゃなくて太ももだけど。
「いってえ!!モモカン入った!!!」
太ももを抑えながら言う。あ、モモカンってあの太ももの中心らへん入るとクッソ痛いやつね。正確に言うと大腿部筋挫傷とか大腿部打撲とかいうらしいよ。ネットで調べた感じ。
「なんで!?なんでぇ!?」
「目をこすってよく考えろ」
涙目になりながら、無実を訴える戸張。非情なる冬樹。
「...寝てたから?」
痛みが治まってきたのか軽く太ももをさすりながら言う。
「それは正しくない。正確には、俺が眠さに堪えながら、真面目にガイダンス聞いてるときにお前がのうのうと隣で大爆睡してたからだ」
「超理不尽!?」
騒がしい二人。体育館だからあんまりだったけど。
「トイレ行こ」
「しかもスルーかよこいつ!?」
無視してトイレに行く冬樹。さすがにトイレにまでついてくる気はないらしい。まぁ、トイレで騒ぐ気はないからいいんだけど。
(んで、どう近づこうかね。次も爆睡されたら話しかけるもなくなっちまうし)
のんびり考えながら、トイレに行き、用を足し、体育館に戻り席に座るために戻ると
「ん?」
椅子の上にプリントが置いてあった。
「あ。さっき回ってきたからそのまま回したよ」
戸張が言う。うわ、話すきっかけなくなった。
「・・・」
ドスッ
「いってえ!今度は何!?」
「・・・・・」
ただの八つ当たりだけどスルーして次の部活動説明会を待つ。
「なんか言って!?」
何も言わずにスルー。
「怖いんだけど!?」
スルー。
「ねぇ!?」
隣で一人で騒いでる人がいる構図になってる。可哀想な俺と俺じゃないほうの戸張の向かい側。まぁ、俺の方向いているから一番かわいそうなのは俺だけど。
「キーンコーンカーンコーン」
ありがとう、チャイム。お前に感謝する日が来るとは思わなかった。
「それでは続きを始めたいと思います」
ガイダンスの時のように気を張る冬樹。渋々真面目になる戸張。
そうして部活動説明会と冬樹の挑戦が始まってゆく。