第3話 抱腹絶倒
・・・はぁ、俺は今、保健室にいるわけなんだが…何があったら入学式の前に保健室に行けるのか。
流石の問題児、喧嘩で怪我をした?いやいやまさか、俺は細い方なんで、喧嘩強いわけではないし、そんなわけで喧嘩は全力で避ける主義なんだ。移動中に事故で怪我した?いやいやまさか、私はそういったときに、受け身ぐらいは取れるんだ。仮にも送球部を中学時代に3年間はやってたわけだし。
つまるところ、外的要因で怪我をしたわけではなくてね?内的要因のだね。腹痛で腹を抱えているのだよ。
まぁいつものように、朝に学校に行こうと、チャリのこともイマイチわかってないのもあって朝早めに家を出てバスに乗り、電車に乗り、と。交通機関を乗り継ぎ最寄駅である谷間駅に向かう。
・・・決して谷間ではない…正直なんでこんな名前になったのか、市長に文句を言いたいが…敢えてもう一度言おう。決して谷間ではない。谷間である。
とか、超子供のような下ネタを頭によぎらせつつ、クレイジーならきっとここをそう読むだろう、そう読んでくれるだろう、と小さく期待しながら、学校に向かおうとした。そう向かおうとしたのだ。しかし、そこで彼を襲い一瞬足を留めさせたのは、他でもない。
そう腹痛である。
やつはいつも唐突にやってきて、思いっきり人の弱い部分に重い一撃をかましていく。
いわゆるクソ野郎である。
(うえぇ!痛え!)
なお、この男はこれまでそれほど胃腸が弱くなかったのだ。今までは。この後はそうでもないが。故に焦り、故に急ぎ、故に登校経路を無視し、学校への道を急いだ。
そして階段を登り、自身らに割り当てられた階層、一年の為の四階へたどり着き、そこで曲がらず直進し、昨日座った(と思っていた)席に荷物を置き、一目散にトイレへ駆け、またトイレに賭け、またトイレに掛けた。
結論から言おう。間に合いはした。だが、お腹の痛みは収まらなかった。故に近くにいた先生、少なくとも学校関係者の大人に声をかけ、保健室に連れられ、今に至る。
そうこうしているうちに、チャイムがなり、あーホームルームかーとかなんとか考えて何故か中学の時の養護教諭と同一人物が保健室の養護教諭であることを、(なんでやろなぁ?給料かなぁ?休暇かな?それとも持ち回り?)
とかなんとかめっちゃ舐めたことを考えながら、内服薬を受け取り、狸のような担任をのんびり待っていた。
そうしてゆったりしていると、
「コンコン」
と二回、扉をノックする音が聞こえる。
(あ、最上ちゃん、きたかな?)
出会って2日目の、しかも男の担任を、ちゃん付けで呼ぶこの男のメンタルである。…しかも腹くだして保健室に移動したのに、だ。
入ってきた担任に対して、率直にことのあらましと謝罪を述べた。
「あ、最上先生、すいません。腹くだしちゃって。とりあえず教室に荷物放り込んだんですが、トイレ行っても、腹痛、収まらなくってすね。結局保健室に来てました。」
若干嘘臭さもあるように思えるが、全くもってそんなことはなく。割とガチな話である。ガチな話なのだ。ガチな話だったんだ。ガチだと思ってたんだ。
「ん?まぁよくあることだから。別に大丈夫」
あっさりと、度々あると言われ、存外普通なのかーとか思ってしまいながら。次に聞いた言葉に耳を疑った。
「あれ?でも教室行ったんだよね?なんか羽田の席、荷物なかったし、みんなが『休んだの?あいつ?』みたくなってたよ」
へ?いや待て待て待て。だって俺今は荷物持ってないし、朝トイレ駆け込んだ時に目の前の教室に…。
あれ?目の前の教室…だよな。確かうちの作りって三カ所階段があって、一番手前側の入り口から近いところが確かC組に近くて、奥側の所はPとか別学科のαおかの所で、真ん中の所の正面は…FかG…。
「・・・・・」
彼は、きっと戸惑ったことでしょう。FかG組の、羽田冬樹が自分の席と勘違いをし、荷物を置いて、座ろうとしていたその席の子は。もしかしたら、彼自身が、自分の席じゃないとすら思ったかもしれない。
なんといったって、入学式の日。まだ学校にも馴染んでないだろうし…まして、2日目である。自分の席に荷物を置いてあったら普通なら席がわかんなくなるだろう。いや、もう時期が時期ならただのいじめやし。
「お前の席、ねーから!」みたいなレベルやし。
…つまり、普通に可哀想になることをやらかしたというだけの話である。
まぁ腹痛で気づいてないんですけども。
「あー!!!やらかした!?」
「…えーっと、何したの?」
「入って目の前の教室の自分が座ってた席に荷物を置いてダッシュでトイレ行ってました」
普通に考えたら、自分の席ぐらい確認するだろうし、周りのやつぐらいは確認するのが道理なのだが、腹痛はそんな冷静な判断力すら奪い取ってしまうのだ。マジ許せん。
「あー、とりあえず教室行けそう?」
「まぁ、内服薬貰ったんで。なんとか。」
「…場合によってはアウトだけど、まぁいいか。」
「・・・あ、そっか」
アレルギーとか薬の都合とか、色々ある場合本来はダメなんだ。まぁ入学式前だからね。しょうがないね。
「…とりあえず戻ろうか」
「…ですね」
この二人は問題を見て見ぬふりをするタイプだということをお互いに認識し合い、多分この時にお互いに
(あー、こいつ腹黒だわ)
と認識したと、思いあいながら、教室へ向かった。