第1話 吾輩は男子高校生である。
私は男子高校生である。名前はまだない。
なんて現代日本においては考えられないことを思いながら目を覚ます。
俺は羽田冬樹。名前に冬とか入ってるのに秋生まれのおかしなやつである。親曰く
「冬に樹が残ってりゃしっかりしてんだろ」とのこと。たしかにそうだけどさ。季節感ってしってるかな?
まぁそんなどうでもいいことはおいといて。本日、高校の準備登校とのことで。まぁちょっと浮かれてたりもする。だってアニメにラノベにの舞台って7割くらい高校じゃん?(偏見が過ぎるかな?)
いや、その前に。準備登校がある学校って普通はないのか。うちの高校、吉谷高校という私立の高校だ。これまたよくあることで公立に落ちたから行くことになったから存外落ち込んでいるかと思いきや。大してへこんでもいない。なんてったって宿題サボって内申低いし勉強してないしだったからね。まぁ当然のことで。(今思えば私立吉谷高校のまぁまぁのコースに入れたことも奇跡的な気がしなくもないのだが)
とまぁそんな遍歴のあるダメ人間である。それはさておき。
そんな問題児を抱えることになる高校、吉谷高校は準備登校というものがある。正直な話、準備登校を新入生が行うというのも訳がわからないのだが。まぁ問題児を抱えることになる高校なのだ。なんてことはなかった。
そんなこんなで吉谷高校に浮かれながらも、遅刻はさすがに出来ねえなぁ…と一応の真面目さアピールのためにもちょっと早めに起きて学校に登校をする。
まぁ、ここにおいては二つのパターンが想定される。
一つは家が近いからチャリで行こう!ってタイプ。基本的には自分はこちらに属する。
なぜ基本的になのか。家庭の問題で別のお家にいるときもあるから…とかそんな悲しい理由ではない。
雨の時にチャリに乗りたくない。そんな時のためのもう一つのパターン。バスに乗り駅に行き、電車に乗るというパターン。比較的よくあるだろう。
まぁ、この日は雨降ってなかったけど電車で行きました。チャリ停められるかわからんかったし。
そんなわけでバスに乗ると、なんということでしょう。中学時代の同級生、数人とエンカウント。(当然のごとく、吉谷高校の生徒である)
そいつの名前は麻美。身長はかなり小柄だが、髪の毛がとても長い。俺の理想的な女性像に近い気もするが、身長が足りない。そんな、麻美は中学時代はテニス部だった女子である。そいつは奇跡的にも幼稚園からの知り合いなのだ。幼なじみ?そんなに馴染みある仲ではない。
その麻美と顔を合わせ、軽い雑談をしながら学校に向かう。ちなみに内容だが、本当になんてことない会話だ。
「あ、おはよう。麻美は進学先そこやってんな」
「おはようだけど、なんで訛ってんの?」
エセ関西弁である。
「ただの気分だね。ってか、準備登校だるくないか?」
「新入生がだからね。ちょっと面倒かな」
麻美はなんでもないかのように答える。
ふと気付き、麻美に聞く。
「お前その髪の毛、校則大丈夫なの?」
さっきも述べたが、麻美は髪が長い。背中の真ん中まである。身長が150前後とみても長い。
「さぁ?わかんない」
まぁ、まだ校則書かれた手帳貰ってないし。事前に渡された書類見て校則把握してるほど俺達は真面目ではない。
そんなこんなでバスから降り、駅に向かい電車に乗り。そんでもって隣駅の吉谷高校の最寄り駅に向かう。駅から出た後、吉谷高校へ向かう。俺はとてつもない方向音痴のため、麻美について行ったのだが。
「え?こっちじゃない?」
「確かにこっちにもいるけど、あっちにもいるよ?」
「案内の先生は?」
「いないし。全然わかんないや」
駄目そうである。そしてこれは後に知ったことなのだが。どうやら『生徒は』指定された通学路があるらしい。つまるところ、準備登校初日、俺たちは。
『通学路とは違う近道』で学校へ向かったことになる。
いい子アピールなど、どこへ行ったのだろうか。まぁ、方向音痴だし、登校できただけマシというものだが。
さて、学校について、ここが二次元の世界なら。長い付き合いである麻美と同じクラスになるのだろう。だがしかし、この羽田と麻美の二人には「偏差値」の壁があったのである。
公立ならば関係はないだろうが、私立は関係する。コースというものがあるからだ。コースが上であるところからクラス分けされていくため、最初のアルファベットであるAやBは一番頭がいいわけだ。ちなみに羽田はE、麻美はP。衝撃的だが、これが現実である。
この羽田という男。そこまで馬鹿というわけでもないらしい。
まぁ、私立に落ちてきたとは言っても、地頭がいいのだろうか、それとも適度に勉強はしていたのか。よくわからない。
「あ、俺E組やわ。」
と、麻美に声をかけた。
「え?私P組だよ?」
「え?マジで?」
「え?羽田ってもしかして、そこまで馬鹿じゃない?」
心外である。
「え?麻美ってもしかして、そんなに頭良くない?」
意趣返しをしたら、長い髪の毛で顔面をビンタされる。痛え。でもちょっと嬉しい気もする。
まぁ側からみたら、いちゃついてるように見えることをしてから、別々にクラスに向かう。
クラスに入ると、まぁご察しの通り。知り合い同士の奴らは話しているが、ほとんどが無言である。寝てるか、本読んでるか、紙になんか書いてるか。諸々のエトセトラである。
(はえー…みんな頭悪そう)
この思い上がりである。ちなみにそこまで間違いではない。ただ、そこまで正しくもないが。
席順は、入り口に近い方から3列は4人編成、そこから5列は5人編成となっていた。名字がハ行の俺は5列目の2番目、ほぼど真ん中である。ちなみこの学校、出席番号は男が先、女が後、となっているため、混合の席ではないのだ。
そこの席へ向かうため、教卓の前へ行き、自然に左へと曲がり、自身の席へと向かう。その曲がる瞬間、チラリと見える、自身の前の男の本。
(ん?あれ、ラノベじゃね?)
奇跡的な気づきである。
まぁ特に何をするでもなく、ぐでー、と机に伏せる。
実はだが、入学することが決まってから、あらかじめ、とある冊子が渡されていた。宿題である。
いつものこの男ならやらないのだが、新入生ということは真面目を一度装わなくてはならないため、徹夜でやっていたのだ。まぁ、その時点でだいぶ怠惰だが。
(眠いっちゃあ眠いが、緊張してるせいか、気が張ってんのか、寝付ける気がしねえや…って、ん?)
ふと右を見る。正確にいうと、2列先の男を見る。
(あれって…草野?確か、剣道部だったかで表彰されてたな…)
剣道部ではなかったが、剣道部に友人がいたため、一応知っていた男だった。
(存外、知り合いもいんじゃねえか。まぁ、誰とも話さないで気まずい、なんてことは解消は早そうだな。)
この時は、まったくの杞憂ということを知らない羽田は、無用な心配が消えたと喜ぶ。また、マジで杞憂に終わる。
「ピーンポーンパーンポーン、ポーンパーンピーンポーン」
おおよそ聞きなれないチャイムが鳴る。数人が頭を起こす気配がする。…正直だるいが身体を起こす。
ガラガラガラ。
中に入ってきたのは、中年、というほどでもないが、若いというわけでもなさそうな、見た目温厚そうな、メガネをかけた男だった。
そうして俺の、普通であると信じている、高校生活が始まる。