03 転生王子は決意する
「熱が下がって安心しました、カメリアお嬢様」
「ありがとうコリウス……」
熱にうなされている間、微睡みの間に思い出した数々の記憶の中にはカメリアのものも混じっていた。彼女の国への純粋な忠誠心と愛情が胸を締め付け、その度にこの少女の身体はぽろぽろと涙を流して悲しんだ。愛も、慈しみも、楽しみも悲しみも、怒りも、そしてあの身を焼く断罪の炎の熱も、断片的に体験した私はすっかりゲオルクとしての自我を取り戻した。
「次にゲオルク様にお会い出来るのはいつかしら?」
「ふふ、お嬢様が熱を出されたことを聞いたゲオルク殿下からお手紙が届いてましたよ」
コリウスが侍女へ目配せをすると、綺麗な装飾の鍵付きの小さな小箱が鍵と共に手渡された。
「何でも、お嬢様と秘密のやりとりがしたいのだとか」
微笑ましそうにそう言うコリウスに、恥じらう振りをして箱を受け取った。きっとこの中身はそんな可愛らしいやりとりでは無いだろう。
「ゲオルク様からの大切なお手紙だわ、一人でゆっくり読みたいの」
「かしこまりました。何かあればお呼びください」
テーブルに用意されたカップに温かい紅茶を注ぐと、コリウスは侍女と共に部屋を出た。ベッドからゆっくりと降りてソファに座る。すっきりとした風味の紅茶が、寝ぼけた頭を冴えさせてくれた。一息ついて、小箱を開ける。封蝋の紋は間違いなくゲオルクのものだ。この国の王族は一人ひとつ紋を持つ。この手紙は王家からではなく、確かにゲオルク個人がカメリアに宛てたものだ。
手紙の文字は、前世で見慣れたものに近い。カメリア自身はきっと、俺の字に寄せて書いているつもりだろうが、所々の癖はカメリアのものだ。この世ではもう本来の俺の字など知る者はいないのだから、カメリアの字で書いても大丈夫なのにな。
手紙の内容は、ゲオルクとカメリアの婚約が正式に受理され公表された事と、今後についてだった。幸いなことに、カメリア嬢にまた会いたいと言えば父上は喜んでカメリアを城に招いて良いとの許可を出してくれたそうだ。自分の姪でもあるカメリアが城に来るくらい、子供の内ならばどうということもないのだろうか。とはいえ、カメリアが10歳になる来年からは妃教育が始まるのでのんびりもしていられない。そう、あと一年……。
「アメリア様……」
カメリアが10歳になったその半年後に、アメリア様は病に倒れ、やがて亡くなる。人の生死ばかりは、事前に知っていてもどうしようもない。カメリアの登城を望むのは、随伴するアメリア様を兄になるべく会わせたいというカメリアの想いもあるのだろう。
そして手紙の文末に書かれていた一文は、《婚約披露パーティーが開かれる。もちろん私がエスコートを務めるが、それに恥じぬ令嬢に見えるようきちんとレッスンに励むこと》というものだった。きっと、どの家庭教師よりもカメリアが一番スパルタに違いない……。どうやら、ダンスレッスンはこれから王城でゲオルクと行うことになりそうだ。人目はあるが情報を交換できる機会としては十分な口実である。実に上手くやってくれるな。
「さて、どうしたものか……」
まずは互いの目的を擦り合わせなければならない。カメリアとしての目的は火刑を免れること、だが……。中身の俺自身の目的は、この国をアンリから護ること。先ずは、残酷だがカメリアには話さなければいけないことがある。カメリア亡き後の、この国の有様を。