02 転生王子は思い出す
「だれ、と言われましても……、私はカメリア•ヴィンラント以外の何者でも……」
「違う、そういう話をしているんじゃない。中身の話だ」
「中身……?」
ゲオルク様が一体なにを言いたいのかが分からない。私の中身?中身ってなんだ?じっと自分を見つめている深紫の視線が痛い。
「よく思い出せ、自分が誰なのかを!思い出してちょうだい……っ!私の、身体の返して……!」
掠れた少年の声がやけに耳にこびりついた。”私の身体”、その言葉を聞いてひどく頭が痛くなった。
「っ!」
女みたいで嫌いだったストロベリーブロンズの髪は母譲りのものだ。母の名前はアメリア……?違う、それは叔母の名前だ。母の、母の名はプリムラ……。父は、父の名は、緑の子の加護なしに国を盤石に築き上げた”大樹のフィラム王”……!
「俺の、俺は……、ゲオルク……」
自分の『本当の名前』を呟くと、雪崩れ込む様に記憶が巡る。目の前にいる幼い自分の肩を掴むと、鮮明な記憶が蘇る。緑の子を愛し、そして命を枯らされた哀れな王の末路が。
「皮肉にも私の身体で生を再び受けたのは、ゲオルク様なのですね……」
ぽろぽろと、涙を流しながら目の前の王子は崩れ落ちた。一体どういうことだ。なぜ俺は生きている?何故カメリアの身体なのだ。
「お前が……カメリアなのか……」
鈴の転がるような可憐な声には決して似つかわしくない口調。国の為になるならばと潔く冤罪を受け入れ、灰になったはずのカメリアが、いまここに生きている。それも、俺の身体で。
「これは一体……」
運命を誤り、国を枯らした俺への罰なのか?カメリアとして人生を歩み、その身を灰にして罪を償えと?
「どうやら私たち、入れ替わって生まれてきたようですわね……」
「お、おい俺の姿でその口調はやめてくれないか……」
「ゲオルク様こそ、私のその姿でそんなはしたないことしないで下さいまし」
いくら見た目が中性的とはいえ、それは今だけのこと。将来自分がどう育つかくらい知っている。そう考えれば、このカメリアの見た目で過ごすのは申し訳ない気持ちになるな……。
お互いの姿をまじまじと確認して、情報を照らし合わせると見事に俺たちは魂が入れ替わっている。しかも、時間も戻っているとはどういうことだ。もしかすると、アンリに関わらず予定通りにカメリア……いや、ゲオルクと結婚すれば、国を守ることができるのか?
「ゲオルク様、もうこの際ですから私の身体でどうしようと私はそれを咎めたり騒いだりしません。私も責任を持って!このゲオルク様の身体が!綺麗なまま生きると誓います!」
「落ち着けカメリア!と、とにかく……この事は誰にも言わない方がいい。これからどうするかはまた会った時に話そう。幸い俺たちは……また婚約者なのだから……」
「え、えぇ……そうですわね。ゲオルク様、妃教育を甘く見てはいけません。私の前世での努力の賜物、『花群青の君』と呼ばれる立派な令嬢になってください。決して、お母様を悲しませぬようお願いいたします……」
強く言うカメリアの表情はとても悲しい。そうか、数年後にアメリア叔母さまは……。父が悲しみのあまり、数日部屋から出てこず弱り切っていたのを思い出した。美しき姫の訃報は、国全体を悲しませたのだ。
「任せろ。叔母上の名に恥じぬ美しい令嬢になってやる」
カメリアと俺は固く決意し、手を取り合った。あぁ懐かしい。互いをよく知る信頼こそが、恋愛感情など無くともカメリアと生きていけると強く思わせてくれたではないか。
「もうじき時間です。ゲオルク様、いいえ……カメリア嬢、近いうちにまた会おう」
「えぇ、必ず」
そうしてしばらく経った後に、アメリア様……もとい、お母様が迎えに来て下さってた。馬車に揺られながら帰っている最中からの記憶はあまりにも朧げで、その翌日には熱を出して三日ほど寝込んでしまった。
俺はゲオルク•カメルリア。今はカメリア•ヴィンラント公爵令嬢。今度こそ、カメリアを大切にすると神に誓おう。前世であんなにも惨たらしく殺してしまった美しいカメリアを、二度と灰になどさせない。