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01 私は誰?


「カメリアお嬢様、今日は一段と可愛いです!」

「そ、そうかしら……」


新しく仕立ててもらったドレスは、今まで着ていた子供らしいものではなくて、少し大人のドレスにデザインが近く、色は深いネイビーのもの。お母様のお下がりの髪飾りをつけてもらい、侍女の言う通り今日の私はいつもより可愛い。でも、ソワソワと落ち着かない。何故なら今日は王城へ行き、私の婚約者であるゲオルク様との顔合わせ。淑女としての所作が身につくまではお会い出来ません、というお母様の言いつけを守りレッスンを頑張ってきたので、私はもう立派な8歳のレディなのです!


「まぁ、まぁまぁ!カメリアちゃん!なんて可愛いの〜!」

「アメリア様の幼い頃にとてもよく似ていますなぁ」


執事のマートルはお母様が小さい頃から仕えている。そのマートルが言うのならば、私は本当にこの美しいお母様に似ているのだろう。そう思うととても嬉しい。


「アメリア、もう馬車の準備はできているぞ」

「あら、もうそんな時間なのね?さぁ、お城に行きますわよカメリアちゃん!」


久しぶりに、兄である陛下にお会いできるのが嬉しいのか、今日のお母様はいつもよりテンションが高い……。


「いってらっしゃいませ」


私が転んだりしてドレスが汚れないよう、私専属侍女のコリウスが過保護に手を出して馬車までエスコートをしてくれた。コリウスは少し変わっていて、邪魔だからとせっかくのきれいな赤毛を短く切り揃えている。キツめの顔なので勘違いをされやすいが「とてもお似合いです」と私に微笑む表情はいつも通り、ふにゃっとしている。動きやすいからと執事の様な服装をしていて、細身で背も高いのでぱっと見では性別を間違えても仕方がない。


馬車の中で緊張していると、お母様が陛下の幼い頃の話をしてくれた。お母様と陛下はとても仲の良い兄妹で、お母様が降嫁しても変わらず妹として接してくれる優しい王さま。ゲオルク様はそんな王さまの息子なので、優しいに決まっているわ。従兄妹と言えど、王族と公爵家の私たちが、まともに顔を合わせるのは実は初めてのことで、そりゃあもう私は一挙一動に気を付けなければいけない。第一印象はとても大切だもの!


「カメリア、力が入り過ぎている。もう少し楽にしても大丈夫だぞ」

「そうよ〜、フィラム兄様もカメリアちゃんに会うのを楽しみにしていたわ。婚約者の顔合わせといってもほとんど親族の集まりなんだから」


そりゃあ、お母様にとって王城は実家ですから……。だけど社交界デビューもまだの私にとって王城は、未知の世界なのです……。







「おぉ!久しいなアメリア!それにアスターも!」

「義兄上……、ごほん。陛下、今日の主役は殿下と我が娘のカメリアです」

「お久しゅうございます、陛下。カメリア•ヴィンラントです」


落ち着いてゆっくりとカーテシーをして、そっと見上げると。陛下と王妃様がニコニコと私を見つめている。


「おぉ……、おぉ!カメリア、大きくなったなぁ!」

「こんな素敵なレディがゲオルクのお嫁さんだなんて!」

「さぁ、立っていても仕方がない。城の中庭で茶会でもしながら今後について話をしようではないか!」

「中庭!いまの時期は薔薇が見頃なのではなくって?兄様にしては粋な計らいじゃないの〜!」


私の緊張など知らんとばかりに、大人たちは盛り上がっている……。とても、とてもアウェイな私はどうすればいいのかしら……。お城のメイドに案内されて中庭へ行くと、見事に手入れされた数々の薔薇が咲き誇っていた。私が薔薇に目を奪われていると、陛下が声をかけて下さった。


「気に入ったものがあれば庭師に切らせよう。あぁ、ゲオルクだが……先程剣の鍛錬が終わったところでな。もうじきこちらに来るぞ」


ゲオルク様にもうすぐ会える。その言葉だけで私の胸はドキドキと高鳴り、あれ?なんだか……ドキドキと、ザワつきが……。いいえ、きっとこれは緊張のせいだわ。スーハーと深呼吸をしてお母様を見ると陛下のお言葉に遠慮なく、庭師に頼んで薔薇のブーケを作ってもらっている。きっとお部屋に飾るのね。お母様はお花が大好きだもの……。私はあの小さくて白い薔薇をお願いしようかしら。というか、王城のお花ってそう簡単にいただいていいものなの?私の場合は子供のわがままとして受け取られても仕方がないが、遠慮をしないお母様を見ると全然そんなことは気にならなくなる。席について、淹れてもらった紅茶を飲むと、はちみつの香りがふんわりと口に広がり、心が落ち着いた気がする。思い出話に花を咲かせる陛下とお母様、対照的に私の今後の妃教育についての話を進めるお父様と王妃様……。あぁ、この林檎のジャムとたっぷりのクロテッドクリームのスコーンとても懐かしい味が……、懐かしい味?もう一度の違和感に、手が止まる。それと同時にまだあどけない男の子の声がした。


「ヴィンラント公爵、それから夫人、遅れて申し訳ない」

「待っていたわ、ゲオルク。さぁ、こちらに座って」


王妃様に手招きをされて私の正面の席に着いた男の子こそ、この国の第一王子であり、私の従兄妹で、婚約者のゲオルク王子。ふんわりとウェーブがかったストロベリーブロンドに、見つめると吸い込まれそうな深紫の瞳。中性的でお人形のようなゲオルク様と目が合った私は、バチリと背中に電撃でも走ったような衝撃を受けた。


「は、はっ、お初にお目にかかります。カメリア•ヴィンラントです」


慌てて椅子から降りてカーテシーをする。見上げるとゲオルク様は、私に冷たい視線を向けて言った。


「最低限のマナーはきちんとしているようだな。王太子妃にふさわしくなれるよう励むが良い」


見た目の愛らしさに反してなんと高圧的な王子様でしょうか!身分差はあれど!私とあなたは従兄妹だろう!?ただ一つ歳が上というだけで、なんて偉そうな奴だ!……っと、私こんなに言葉が悪かったかしら?


「ははっそう照れるなゲオルク。すまないカメリア嬢、ゲオルクも自分の婚約者に会えるのを楽しみにしていたんだよ。剣の鍛錬が長引いたのは、興奮を発散させるためだろう」


お母様と王妃様は「照れ隠しね」なんて微笑んでいるが、私の目にはちっともそうは見えない。


「父上、これから神官と婚約に関する手続きがあるでしょう。カメリア嬢と庭園を散歩しても良いでしょうか」

「勿論構わないぞ。なぁに、焦ることはないがこれから長く付き合う相手だ。時には子供らしく過ごすのも大切なことである」


そうして私は、ゲオルク王子と庭園を散歩することになったのです……。いいえ、婚約者としてこれから嫌でも一緒にされる機会が多いもの。少しでもゲオルク様について知って、仲を深めるべきよね! にこにことこちらを見る大人たちに見送られ、私はゲオルク様の後に続いた。緑のアーチをくぐると、そこに広がるのは見事な庭園で、自分の背丈ほどの生垣のせいで、うっかり迷うと日が暮れるまで出られなさそう……。

ゲオルク様は迷いなくずんずんと進み、たどり着いたのは少し小高くなった位置にあり、庭園をよく眺められるガゼボ。


「ここは、アメリア様のお気に入りの場所だ」

「母が……」


どうして、私も知らない情報をゲオルク様が?陛下に聞いたのかな。手を引かれ、綺麗に手入れされているベンチに腰掛けると、ゲオルク様は座った私を見下ろして微笑んだ。どうして……、どうしてそんなに寂しそうな顔をなさるの。何か一言、会話を始めないとと口を開くと、ゲオルク様は冷たい表情で私に言葉を投げた。


「お前は誰だ」

「……は?」



誰、とは一体どういうこと!?




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