17 転生王子は再会する
遅くなりました……。
「カメリア、僕と契約した従者を紹介しよう」
「……ゲオルク殿下の専属侍従を任命されました、ディル•ベッカーです」
かつて自分に仕え、支えてくれた男を前にカメリアの瞳は揺らいだ。
「よ、よろしくね、ディル……」
ディルはカメリアに礼を取ると、主人とその婚約者を二人にすべく数本下がろうとするのを、ゲオルクは止めた。
「ディルもここに座るといい」
「え!?しかし自分は……」
「ディル、僕とカメリアと三人だけの時は、僕の侍従ではなく友として接してくれ」
「殿下……しかし自分はまだ信頼に足る人物では……」
「ではこれからそうなってくれ」
「は、はいっ!」
知り合ったばかりの自分に大きな期待を寄せられ、ディルは困惑した。しかし目の前の二人は優しく微笑み、ディルは新しく用意された居場所の暖かさに涙を堪えた。
「お……お二人はいつもこうしてお茶を?」
「えぇ、私とルークは離れて育てられたから、実はあまりお互いをよく知らないの」
そう言ってクッキーをひとつ摘むカメリアに、ゲオルクは鋭い視線を向けた。
「メリー、まさかディルの分まで手を付けないだろうね」
「っ!そこまで食い意地は張ってませんわ!」
「前に自分の分では飽き足らず、僕のクロテッドクリームまで食べたじゃない」
「それはルークが残すから勿体無いと思って……」
「皿ごと取り換えたのが母上にバレてないと思っていたの?」
「え……」
「冗談だよ、メリー」
「ルーク!!」
赤面し、口をパクパクさせて怒りを表すカメリアの口に、ゲオルクは半分に割ったクッキーを入れる。きょとんとしてそのまま口を閉じ、クッキーを咀嚼して飲み込んだカメリアは、すとんと椅子に座りなおして黙った。
そんな二人のやり取りを見ていたディルは、笑いを堪えることが出来ずに吹き出してしまった。
「っはは、殿下もカメリア様も、聞いていたよりずっと楽しい御方なのですね」
「ディル……」
「これが僕たちさ。だけど正直言って、僕とメリーは愛し合っていない。ただお互いの利害の為に一緒になるんだ」
「ディル、貴方だけでも……この時間を大切に覚えていて」
突然、神妙に話す二人にディルは頷くことしか出来なかった。この二人は一体何を抱えているのか、ディルは知る由も無い。だが彼は厳しい環境で育ってきただけあり、純粋でもなければ、鈍感でもない。ゲオルクとカメリア、二人の間に自分がとてもではないが触れられない事情があると察し、問うことはしなかった。
「……アメリア様の体調は?」
「良いわ。怖いくらいに、ね……」
「そうか……、そう。なら、いいんだ……」
「教えてはくれないのね、ゲオルク」
前世では、アメリアの身体は徐々に病に蝕まれていた頃だが、今世ではその兆しすら見えない。
「貴方の12歳の誕生パーティー、母は出席するわ」
「君たち母娘が来てくれるならお祖母様はさぞお喜びになるだろうね」
「……ドレスをいただいたの。生地は新しい物だけど、お母様が着ていたものにそっくり」
「君がねだれば、皇太后は新しい城の一つくらい喜んで建ててくれるだろう」
困ったようにため息を吐くカメリアに、ゲオルクは皮肉で返した。気まずい雰囲気になるのを危惧したディルは、咄嗟に話題を変える。
「そ、そういえば殿下の誕生パーティにはカメリア様以外の四大公のご子息、ご息女も来られるんですよね!」
その言葉を聞いてしばし、ゲオルクとカメリアは見つめあった後、二人同時にうなだれた。
「「はぁ……」」
「お二人とも!?」
「ディル、パーティでは覚悟しておくことね……」
「彼らの相手は一筋縄ではないぞ……」
何もしていないというのに、顔色の暗くなる二人を見て、ディルは顔を引きつらせた。