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12 転生王子と母の秘密


「あぁ、私のタルト・タタン……」

「カメリア様、そんな情けないお顔をしてはいけません。私はお嬢様の専属ですが、ゲオルク殿下からの勅命には逆らえませんので……」

「ルークは悪魔だわ!」


きちんとレッスンもこなし、適度な運動もしているのだからと、自分へのご褒美におやつをリクエストしたカメリアの楽しみは、悲しくも制限されてしまうのだった。


「カメリアちゃんはもう少し丸っこくてもいいと思うよのね〜。まだ子供なんだし、細すぎるのも不健康に見えて良くないわ」

「お母様……!」


母譲りの色白の肌は淡い菫色の髪に縁取られ一層際立つ。成長と共に幼さが抜け、その確定した美しさは圧倒的なものとなるだろう。だからこそ、母のような自然で、且つ絶対的な気品が求められる。だかその美貌とプロポーションは決して勝手にそうなるものではない。


「いいえ、奥様。最近のお嬢様は間食が多いです。新調したばかりのワンピースも既に腰回りが少しキツく……」

「コリウス!」


カメリアは顔を赤らめて母を見ると、扇子で口元は隠れているがクスクスと愉しげに笑う母の姿があった。まだ病の兆候は見られないが、茶会や外出の頻度は少なくなっている。目には見えぬだけで、本当は無理をして姿を見せているのではないかと、カメリアは心配していた。カメリアに同伴して登城する予定も「カメリアちゃんなら一人でも大丈夫ね」と言って断ることが多い。城の大好きな庭園にも足を運ぶ頻度が減ったために、庭師が「アメリア様へ」とカメリアが帰る頃に、その日ごとに見事に咲いた花の一輪を従者に預けている。


「そういえば殿下との仲はどうなの〜?ずうっとお手紙を交換しているようだけど」

「良い、かと思います……。私のことを励ましてくださいますし、また庭園のガゼボで話をしようって……」

「あらぁ。あのガゼボ……、そう、そうなのね」

「お母様……?」


嫌なことがあった日はそこで花を眺めて一日を潰し、嬉しい時もガゼボで一人踊り、悲しい時も足を運び人知れず泣いた、そんな思い出が秘められているアメリアのガゼボは、自分の娘の思い出の場所となるのだろうと、彼女はそれに懐かしさと嬉しさを抱いた。


「カメリアちゃんは欲張りね、母様の物を何でも欲しがるのだから」


刹那、母の表情に見えた悲しみはカメリアの胸をちくりと刺した。


「お母様、カメリアは我儘な娘です。だからお母様の物は全て欲しい。その美しさも、仕草も、全部ぜんぶカメリアの物にします」


カメリアの言葉に、キョトンとしたアメリアは次の瞬間娘を強く抱きしめた。


「えぇ、えぇ!そうね、そうでなくちゃ!母から何もかも奪いなさい。それくらいの強さが無ければ、国母なんて以ての外です。社交界でも生きられない、お飾り令嬢の娘なんて、わたくしは要りませんわ!」

「ア、アメリア様!お嬢様が窒息してしまいます……!」


ぎゅーっと抱きしめられ、やっと解放されたカメリアが息を整えると、目の前には泣き笑いしている母がいた。


「三番廊下の四枚目。覚悟があるのなら、そこへ行きなさい」

「それは一体……」


口に人差し指を当て、ただニコリと怪しげに微笑みだけを見せ、アメリアは部屋を出た。三番廊下というと、アメリアのいた南の宮に繋がる廊下が心当たるが、前世の記憶で城の構造を思い出すものの、そんな場所に何かあった覚えはない。


「……コリウス、すぐに紙とペンを」


きっと、何かがあるのだろう。一刻も早くその場所についての情報が欲しいカメリアは、ゲオルクへと手紙を書いた。このことは前世の彼女も知らないはずだ。ならば、歴史が少し変わりつつあるとしか思えない。もしアメリアの病がまだ発病していないのならば、アメリアしか知らない何かが隠されているのならば、一刻も早く暴かなければならない。前世であれほど母を敬愛していた彼女にとって、どうか朗報であってくれと想いを乗せ、カメリアはペンを走らせた。



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