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11 転生王子は甘党令嬢


優雅な音楽が流れるホールで、人々は水を打ったように動作が止まった。


「なんと、殿下自らエスコートを……?」

「あのご令嬢は一体……」

「かの美しさ、まるでアメリア姫の再来じゃないか……!」


まだ幼い一組が中心へと向かうにつれ、貴族たちの囁き声は波紋のように広まる。今冬のデビュタントで王子殿下と同じ年頃の子供たちが社交界デビューをする為、自分の子を側近や婚約者にとその座を狙っていた貴族は少なくない。ヴィンラント公爵家の令嬢の姿がやっと表に出ると話題でもあったが、王族と血縁を持つアメリアの子であることと、表に出ないのはアメリアと同じく病弱だと思われていた為に婚約者候補ではないと誰もが思い込んでいたのだ。


「二度目の体験ですが、立場が違うと面白いな。デビューと同時に、王太子妃候補として見定められる気分はどうだい?」

「注目の的になるのは慣れてますわ。それに……物怖じする”貴女”じゃないでしょうに」


階段を登り国王と王妃が並ぶ玉座の前へ出ると、カメリアは見事なカーテシーを見せ、そして両者が頷くのを見ると、二人はホールを振り向いた。


「紹介しよう、僕の婚約者のヴィンラント公爵家、カメリア•ヴィンラント嬢だ」


微笑み一つが牽制となり、その発言は武器となる。女の戦場とまで呼ばれる煌びやかな社交界に、カメリアは足を踏み入れた。前世ではいつも上から眺めていただけの世界で、カメリアはこれから生きていかなければならない。


「カメリア、ダンスを僕と踊ってくれるかい?」

「えぇ、勿論ですわ。ゲオルク殿下」


この国で最も高貴な、小さなカップルのために中央への道は開かれる。音楽は社交界デビューをした貴族の子らも踊りやすいゆったりとした曲調に変わり、ダンスが始まった。


「懐かしい曲だ……」

「初めてダンスした曲ですもの」


前世での幼き二人の記憶が蘇る。何故かゲオルクの方が緊張しており、カメリアに一喝されてエスコートをしたこと。ダンスのステップを間違えてカメリアに後から怒られたことなど……。あまりいい思い出ではないなとカメリアは苦笑すると、同じ事を考えていたのか、見上げたゲオルクもフッと笑った。


「ヒールで踊るのって大変ですのね……」

「だから余計なダンスはしたくなかったんだよ」


婚約者がいると分かっていても、カメリアのその美しさを間近で見たいとダンスの申し出は多かったが、カメリアはそれを「足を痛めてはいけませんので」などと、つまりは”ダンスが下手なあなたと踊って足を踏まれては堪らない”という皮肉で返していた。いつもカメリアとダンスを踊るのは、婚約者であるゲオルク、他国の来賓や国内の有力貴族の子息だけだったこともあり、まさに社交界の高嶺の花であった。


「まさかそんな理由だったとは」


クスクスと笑う令嬢と、それを見つめる王子。周囲の目には仲睦まじく、微笑ましいものに映るだろう。


「メリー、気を付けるんだ」

「……ルーク?」


ダンスの密着に乗じて真面目な声色でそういうゲオルクに、カメリアは身構えた。婚約者だと知られたことで、早くも自分が何らかの策や反対する貴族に狙われるのかと、緊張が一層高まる。


「クッキーは三枚まで、ケーキは小さなものをひと切れだけ、サンドイッチは野菜のものだけをふたつ、紅茶には砂糖もミルクも無し、だ」


グッと強めに腰を抱かれ、カメリアは恐る恐るゲオルクを見上げて表情を確かめた。


「コルセットで締め付けていても分かりますわよ……!茶会ではその甘党が仇となり白豚にならぬよう気を付けて下さいまし」


令嬢口調が出てしまう程に強く念押しされ、カメリアはギクリと冷や汗をかいた。


「は、はい……」


二人の身体と手は離れ、ダンスのパートナーは次へと移る。さっさと王族の壇上へ戻りダンスを逃れたゲオルクに対し、次々と申し出が殺到したカメリアは何かを食べる間もなく踊る羽目に。


(これだけ踊らされるのならば、食べる量を制限しなくても大丈夫だろ……!)


帰り間際にゲオルクを方を睨み付けると、そこにはゆったりとソファに座り、優雅に手を振って自分を見送る王子の姿があった。


甘党(元)王子はスイーツが食べたい


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