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中年旅先でリフレッシュする

 6月が終わり7月の初め、中年は有給休暇を取得した。それも2日間。土日と合わせて4連休。

 

 年度の初めに申請していた、会社の福利厚生で決まっている年に2日は取らなければならない休日。それを取得したのだ。


 目的は友人との2泊3日旅行。アイドルライブを見に行くついでに旅行しようぜが目的だ。


 今の会社を退職しようかどうか迷っているだけで3か月が過ぎ、自分でも考えるのが嫌になってきたタイミングでの息抜き。そういった意味ではよかったのかもしれない。


 目的地は福岡。友人とは現地集合。


 移動するだけで半日を要するがそれもまた良い。バスに揺られ電車に揺られ、飛行機に1人揺られて、文庫本を読んだり、居眠りしたり、何となく外の景色を眺めたり。ただ座して半日。ただ歩いて半日。これがなかなか心地よい。全く生産性のない時間も生きるためには必要なのかもしれない。


 現地にて友人と合流してからはなお良い。お互いの近況を語らいながら街を歩き、ご当地の旨いものを食べ、夜はアイドルのライブではしゃぐ。はしゃいだ後はまたご当地の肴をあてに酒を呑む。

 会社とアパートとの往復という日常から離れ、ただ食べること、楽しむこと。

 ちゃんと自分は楽しめる。人生のなかで楽しいと思える時間がることを確認できただけでも、本当にいい旅だった。


 そんな旅の中でも印象に残っているのが2日目の夜に出会ったガールズバーの店長だ。


 友人と二人で訪れたガールズバー。日をまたぐ前だったが、店内には自分たちのほかには女性店員数名と店長しかおらず、店内中央の席に通されるとすぐに女の子が付いてくれた。

 初めてなので料金説明から伺っていると、人懐っこそうな店長が、ご旅行の方ですかと話しかけてきた。

 女の子と話したくて来た店なのに無粋な奴めと思いもしたが、話してみるとさすが水商売の店長、話が面白い。


 ずいぶん空いてるんですね。いや、この店は0時過ぎてからが混みだすんです。


そんな会話をしているうちに、本当に客が入りだし、私と友人は隅の方へと追いやられ、女の子も常連らしき客に取られてしまった。

活気づく店内とは裏腹に落ち着いてしまった私達がちびちびお酒をなめていると、申し訳なさそうに店長が話しかけてくれた。

 「ほんとに0時過ぎから混みだすんですね」

 冗談っぽく伝えると、だから言ったでしょうと自慢げにお酒の追加を聞き、店長と一緒に飲む形となった。

 店の現状から生い立ちについて質問すると、これまた自慢げに話してくれた。

 20代半ばで店を開き10年で3店舗を営む店長は私と2,3歳しか変わらなかった。


 若くして起業なんてすごいですね。と素直に私が称賛すると、これしか出来なかったんですよと返された。


 なんでも高校卒業して生活のために居酒屋でバイトを始めると、人との会話を楽しめる性分が幸いしてか、本人も楽しく仕事ができたらしい。お客さんの受けもよく、ずいぶんと集客に力をふるったらしいが、なんでもお客さんとの会話を楽しみすぎて、店内の掃除など、ほかの店員に任せっきりにすることもあったそうで、バイト仲間からやっかみを受けたらしい。その店の店長からもお小言を言われるようになると、どうにも納得がいかなくなって、自分で店を開くことにしたという。

 なんとも行動力のある人だなと、転職したくてもできない自分がなんだか情けなくなってきました。などと酔ったついでに愚痴を言うと。


「いやほんとに好きなことしかできなくて、他人にぐちぐち言われるのが嫌で、店を持とうと決めたわいいけど、人と話すことぐらいしかできないもんだから、最初はうまくいかないことばかりで、ずいぶんと色んな人に助けてもらってます。きっとお客さんは器用なんですよ、だからできることが多くて、その分悩むことが多いんじゃないですか?」などと言われた。


 私は器用なんだろうか。選択肢が多いから悩みが多く、動けずにいるのだろうか。


悩むという事は、結局は両取り。どちらの選択にも捨てられないもの、得たいものがあるために生まれる行為なのではないだろうか。

 そういった錯覚をしている状態を指していて、正しい選択は一つだけで思い悩む間にずるずると人の道から外れていっているのではないか。


 そんな考えがふとよぎるが、延長どうされますか?という店員の声で我に返る。

 友人と目配せしてここが引き時とお会計をお願いする。


 遠い福岡の街、夜の繁華街の片隅でも、自分の人生を生きている人は確かにいる。


 私はどうだ。


 






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