中年流されるままひと月が過ぎる
あれからひと月が経ち、すでに6月も終わろうとしている。
五月の終わりごろ、転職エージェントに市況についての情報と、自分の市場価値について聞きに行きはや一か月。転職活動は何一つ進展していない。
田舎の実家に帰るという何となくの目標を立てたものの、大手転職エージェントにさえ、実家から通える範囲の就職先情報はなく、一度実家に帰る未来図を描いてしまうと、ほかの企業にはあまり気が乗らなくなってしまった。それならばと地元のハローワークに顔を出し、色々な求人を見せてもらった。が、なかなかいいかもと思える求人もあるのだが、いざ応募となると腰が重い。
地元の企業に詳しい親戚を頼って、助言をいただきに行ったはいいが、
「転職先の企業で君が何をしたいか、実現したい夢はあるか、というのが大事だ」
と至極全うなことを言われ、
「そんな大層な夢などない、実家でぬくぬくと暮らしたい」などとは口が裂けても言えず、前向きに検討しますとその場を濁す言葉を発するのがやっとだった。
そもそもなぜ今の会社を辞めたいのか。
自分が今の会社で昇進してうまくやっていける自信がない。今の仕事自体に興味がわかないし、言われたことはやるけれども、自分から率先して何かをしようとは思わない。肉体労働が主なため、体を壊した後のことも心配だ。
と、転職エージェントには話したものの、正直なところはやはり人間関係だろう。
職場の同僚と話が合わない。上司とそりが合わない。いつもイライラしながら仕事し、家に帰ってもへとへとで何かしようとも思わない。
結婚したい相手もいないし、永住したい土地もない。
やはり自分の死に場所を選べと言われたら、実家と答えるだろう自分がいる。少なくとも私には両親がおり、いずれ介護が必要になるのは目に見えている。脳性麻痺の妹は施設に預けるとしても、精神障害の弟はこの先どうなるだろう。私が戻る理由はいくらでもある。
けれど果たして実家近くの企業に転職して大丈夫だろうかと危ぶむ自分もいる。
今より給料が下がるのは目に見えている。
中小企業では今より福利厚生がよくなることはないだろう。
人間関係も心配だ。閉鎖的な田舎の空気の中、一歩人間関係を間違えれば、逃げ場のないまま一生苦しむことになる。
そもそもほんとに新しい仕事などできるのだろうか。自分の職歴を考えても何か役に立つとは思えない。
心配。甚だ心配。
そうこうしている間に一か月。埒が明かないと、以前お世話になった先生の下へ話を聞きに行く。
「まず、今の職場の人間関係を改善してみたらどうだろう。どこに行ったって嫌な人はいるし、合わない人はいるのだから、まず今の職場の人間関係を克服してから次に移った方が、自分の自信にもなっていいと思うよ。あとはやっぱり何がしたいか明確にすることだね。今の仕事から逃げたいばっかりじゃ人生つまらないよ。まあ逃げるのも悪いことではないけどね」。
なんともありがたい言葉である。
結局は自分次第。とそう思うことにして、今に至る。
確かに、辞めるつもりで今の職場のことに当たると、以前よりも幾分か気持ちが楽になっている気がする。心なしか表情も明るいようで、職場の同僚から声をかけてもらえることも増えた気がする。
いい方向に向かっているのか。向かっているのか。そうなのか。どうなのか。
なんかこのままずるずると今の会社にいる気がしてきた。
本当にそれでいいのか。