中年が仕事を辞めたいと言い出す
四月の初め、新年度が始まって、間の抜けた新入社員たちが現場研修にやってきたころ、私は無性に仕事を辞めたくなった。
新卒採用されて十年。何とはなしに働き口を探して入社してから十年。それなりに紆余曲折はあったけれども、働き続けてこれた十年。
振り返ると何も残せなかった十年。
あれやこれやと動機を見繕って面接には通ったものの、実際働いてみたら何のやりがいも感じられず、ただ生きていくため、日々の暮らしのため、老後の生活のためと割り切って働いてきた。
こんなものだと思って割り切って働けば、存外人生は楽しいのだとそう思っていた二十代。
飲み会、友人との旅行、ゴルフ、恋愛、新車の購入、焼き肉、趣味への投資。
それなりに日々は過ぎていくのに、いつからか虚しさが心を埋めていってしまった。
仲の良い友達はみな家庭を持ち、会わなくなったのがいけないのか、職場恋愛に敗れたのがいけないのか、胃もたれがひどく肉の脂肪が気持ち悪く感じられるからか、今まで楽しんでいたはずの趣味が面白くなくなったからか。
とにもかくにも、毎日の虚ろさに嫌気がさした私は、自分の人生に嫌気がさしてきたのだ。
その頃からだろうか、私は職場で無性に泣きたくなったり、職場の同僚への怒りで唇が震えたり、また途方にくれて足に力が入らなくった。
二十代の頃も仕事を辞めたいと思ったことは何度もあったが、三十路を過ぎてからの2年、私の体はおかしくなってしまった。
寄る年波による体の疲れが原因か、はたまた精神的な疲れか、出世していく知人友人への焦りか、今まで溜ってきた仕事への鬱憤がついに許容値を超えたのか。
とにかく私は無性に仕事が辞めたくなったのです。