6話・出会い
(結構良いのが狩れたなぁ。今夜はとことん飲むか)
こっちの世界にもだいぶん慣れてきたな、酒の味にもなれてきた。などとぼんやり考えながら歩いていると騒がしい声が聞こえてくる。荒くれ者が沢山在籍する冒険者ギルドなのだ、馬鹿騒ぎや揉め事は日常茶飯事で特に気にはならなかったが…入館すれば嫌でも目に入る。煩い声に三角形の耳を伏せ対処しながら入っていくと目に入ったのは腕を振り上げるごつい男と腕を構えると可愛らしい男の子だった。
頭が思考を巡らせるよりも早く体が拳銃を引き抜き照準を合わせ2度引き金を引く。積み重ねてきた技術とFPSアバターの身体能力が可能にする刹那の早業であった。打ち起こされた撃鉄が雷管を強打し炸裂した火薬が弾丸を発射させ、再び戻された撃鉄は起こされる事になる。次の瞬間、自分でも一通り心の整理が着いた時に見えた景色は唖然とする男の子と膝をつき此方を睨む男の姿だった。
(やっちまった……ショタコンが出ちまったなこりゃ)
(お坊ちゃん…どうしますか?どうやらあの猫人は此方の味方なようですよ)
(どうするも何も……中々に強そうだし、あんな武器知らないし…敵対する理由もない。出来れば話もしてみたい)
(同感ですな、私が見たことの無い物などそうそう無いはず…お坊ちゃんと同じ固有スキル持ちかも知れません。同じ境遇なら仲間に持っておいて損はありませぬ故)
(そうだね)
「お姉さん、助けて頂きありがとうございます」
貴族として胸に手を当て肩幅に足を開け優雅に礼をする。
「い、いやぁ……咄嗟に手を出しただけだから…。」
どこか頬がほのかに赤くなっている気がした。
(なんで赤くなってるんだ?)
(さ、さぁ……私には分かりませんな)
「この度のお礼にお食事でも如何でしょうか」
反応を見ようと視線を顔へ向ける……顔は…真っ赤に染まっていた。
「え、え……ぜ、ぜひっ!!」
唐突に身を乗り出して力まれたので身を引いてしまう。
「は…はい」
(やっぱり……)
(ん?ベルどうした)
(い、いえ……なにも……)
どこかベルの声色から諦めている感覚がした。この猫人の女性はそんなにお腹が空いているのだろうか…。その後日時を指定し立ち去ろうとするが。
「ルアノ…君?冒険者登録はこれからだろ、私が色々と手伝ってあげようかな…とか思ったんだが…」
何故か顔を逸らしながら提案してきた。
(問題ない…というか普通に有難いよね?)
(そうですな、私が来たのは遠い昔ですから…色々変わっているかもしれませぬ)
「お言葉に甘えさせて頂こうと思います」
「お、おう!任せときなっ!」
なんかやっぱり…様子変だよこの人……。
「冒険者ギルドへようこそ!……本日はどのようなご要件で?」
明らかに戸惑っているようだった、自分でも自覚はしている…。確かに小人族は成人しても身長は160と少し行くか行かないかであるが、顔つきは大人びていくのである。しかし現在15歳の僕は146cmしか無い上に顔つきが昔から変わらず幼いまま……自分で言うのもなんだが可愛らしい物だ。なので初対面の人にはいつも先ずは男の子か女の子かと聞かれ、その後何歳かと聞かれる。完全な子供扱いであった。今回もその例に漏れず、と言った感じか…。
「冒険者登録しに来ました」
「冒険者登録ですか?……今おいくつですか?」
「15歳の小人族だ。元服は済ましている」
「えっ」
隣から驚きの声が聞こえるが…無視だ。
「そうですか……それではこの用紙にご記入をよろしくお願いします。それではあちらの席で……」
記入する内容は氏名、生年月日などの基本的な内容から使用武器種や魔法の属性等の冒険者らしい物まで幅広かった。
(ベル、闇属性は書かない方がいいよね?)
(そうですね……何時かは分かるでしょうが…。今広まるのは宜しく無いですな)
ルアノ・エヴァーリッヒ 王歴1825年 6月26日 小人族男性
ワンド(両手杖)ナックル(手甲)ダガー(短剣)
雷、炎、土、氷、水、属性魔法
「へえー、君万能に魔法使えるんだね」
(これ見られて良かったのかな)
(見られて困……らない事は無いけど…もうどうしようも無いですな)
「そ、そんな事ないですよ」
「謙遜しなくていいよ、こんなに沢山使える人中々いないならね」
(そうなの?)
(以前はそこまで珍しいことでは無かったのですが……)
(というか…なんでこの人は頭の上に手を乗せてるの)
(さ、さぁ…私には分かりかねます…)
「俺放出系の魔法使えないし……」
(珍しいですな、一般市民でも殆どの者が使えるものです)
「珍しいですね、それでは先程の遠距離攻撃は魔法では無いのですか?」
「おう、あれは拳銃っていうもので…弓矢の上位互換みたいな感じかな」
「へぇー…今度詳しく伺おうかな。それでは、私はこれ出してくるので失礼します」
(なんか着いてきてない?)
(ついてきてますな)
(女性に手を上げる訳にはいかないし…)
「ねぇ、ルアノくんは何時もその口調?」
「そういう訳ではないですが…」
「なら砕けた話し方でいいからね、俺そう言うの苦手だし」
(どうしようか…)
(良いんじゃないですか?この方から悪意や殺気は感じませんし。それに私達はルーキーなのですから、色々と教えて頂きましょう)
「ええ、構いませんよ。こんな感じ何だけど…宜しく」
(すごい、満面の笑みですな)
(まぁ……友人が出来たのだから良かったのか…な?へんな人だけど)