4話・精霊の暴走
ルアノ・エヴァーリッヒ 13歳
「ほんとに本気で戦っていいの?」
「ふぉっふぉっ、勿論でございます。ご安心くだされ、失礼ながら私が負けることは万に一つも御座いませぬ」
「…ほーう。それなら早速行かせてもらうよ」
挑発と分かり切っているが、喰い付いてしまい思いっきり踏みこむ。一つの弾丸となり一気に懐へ潜り込み練っておいた魔力を手に込め撃ち込もうとするが、その瞬間撫でるように魔力が消える。
「なあっ…。消えた…?」
それとも吸収か?撫でられた瞬間に吸い取られた様な。
「ふぉっふぉっ、驚くのはまだ早いですぞ」
驚くと共に体が硬直してしまい対応が遅れ、もろに掌底を喰らう。アタマが一瞬にして真っ白になり、思考が止まる。意識が暗転する間際感じたのは背中の痛みだった。
「うむ…まあまあじゃのう。そこらの冒険者相手なら圧倒できるじゃろう」
…前衛職には向かんな、魔法が使えるのじゃから後衛職の冒険者になればいいのじゃが。
大気が切り裂かれる音がした、とっさに腕を構え結界を張り直撃を免れたものの身体ごと吹き飛ばされる。
「ご、ご子息様…お、お気を確かに」
むせ返る息を必死になだめ呼びかけるも反応が返ってこない。どう見ても正気を保っておらず、そして何より左眼から零れ出ている魔力量が異常である。想定していた量を遥かに上回っているのだ。
今目の前に対峙している彼は本当にご子息様なのであろうか……。見た目や何よりあの魔眼は彼にしか持ちえない物…。殺めて止めることは出来ない、しかし…殺めず戦闘不能状態に持ち込む事が果たして出来るだろうか…。唯一救いなのは自身の膨大な力を制御しきれていない所であろう。制御できているのならば魔力を垂れ流しにはしない筈だ。視線を外さず圧を互いに掛け合うこと数分、どうやら意識はある様に思えてきた。意識のない本能任せな状態であるのなら向かい合った状態で数分も様子見をするとは思えないのである…。戦闘本能が動くなと指示を出している可能性もあるのだが…。
「ご子息様、なぜこの…っ」
突如地面が爆発したように地面が陥没し、土煙が上る。体制を低く保ったまま懐へ潜り込まれる。全ては刹那の、瞬きが終わる前の出来事であった。
「何故じゃ、貴方がなぜ魔流動を…その技を何処で」
今彼の眼には全身を血液が流れるように魔力が巡っている様子が見えていた…自分はそんな技を教えていないのである。甚だしい程の不気味さを覚える。咄嗟に後方へ跳躍し突進から免れるが追撃の手が無い筈がなく、掌底から続けて繰り出される回し蹴りを間一髪で避けきりどうにか体勢を立て直す。姿勢を低く屈め足を払い、襟を掴み取り相手の体ごと捻り投げ飛ばす。螺旋状に回転し跳んでいき……意識は暗転した。
「しかし…制御しきれていない事がまだ救いじゃな…。やはり自我を無くし暴走しただけじゃったか」
少し残念そうに呟くのであった。
(お坊ちゃん、お坊ちゃん…。意識はあるかい?)
「……」
頭の中に声が聞こえてくる、耳で音として届くのとはまた違う…思念が直接頭に響く感じがする。
「誰だっけ」
(お坊ちゃん、私ですよ。友達になったではありませんか、闇の精霊です。)
「お、お前どこにいるんだよ」
昔、3年前ぐらいに突然現れたやつか…今まで絡んでくることは無かったのに…。それに魔力感知でも捉えられてないぞ。
(お坊ちゃんの中ですよ。詳しく言えば左眼の中ですね)
「そ、そんな事が…」
(現にあれから魔力の扱いが如何程か楽になったでしょう?)
確かにあれから魔力操作がしやすくはなっていた。ここ数年の急成長はそのお陰でもあったのだ。
(少しでも私のことを認める気になりましたかな?)
事実恩恵は受けているので無下にする事は出来なかった。しかし、いつも通りの彼ならば怪しさから容認する事は無いはずであった。いつも通りであれば……今、彼の頭の中からは疑いの心が隠されるように消えて行くのであった……。
「これからも宜しくね」
(勿論ですとも、よろしくお願い致しますよ。オボッチャマ…)
意識は闇に沈んだ。
お久し振りです♪