第八話 兄襲来
「 では、満場一致でこの子の名前は “ オーシャン ” で決まりです!! 」
集会所に集まる村民達。
集会所はいつもの空が綺麗に見える空気のおいしい広々とした場所。所謂 “ 只の空き地 ” である。
「 ヌメリンがいいわよ 」
「 ミズリーナ一世がいい 」
「 俺は、水太郎だな 」
「 体液ヌメオ 」
「 ぬめキングがいいっす! 」
「 ⋯⋯湖の主⋯⋯大精霊⋯⋯水⋯⋯ 何も思いつかないな⋯⋯ 」
満場一致とはどういう意味であったであろうか。村人達の意見は完全に割れていた。こういうときこそ村長の腕がためされる。
エリクは、奥の手を使うことにした。
「 では、本人に聞いてみましょうか! 」
「 ⋯⋯ぬもも? 」
「 あぁ、成る程そうですか。この子は『 オーシャン一択ぬも!他のはありえないぬもね〜 』と、言っていますね 」
「 ぬもっ!? 」
「 そんなに長くなかったし、語尾つける必要ないでしょっ!! 」
「 オーシャンとはどういう意味なんだ? 」
エリクの適当な訳に驚く、水の大精霊。空かさずつっこんでいくアロマ。とりあえず疑問を口にするアルクリース。
「 オーシャンの意味ですか? “ 海 ” ですね!! 」
「「「「 湖なのに!!!! 」」」」
「 息ぴったりですね。村人達に連帯感が生まれつつあるようで嬉しい限りです。僕の知っている生物によく似ているので、その生物に響きを似せてみました。オオサンショウウオでオーシャンです 」
そのように、和気あいあいと過ごしていると、何もない荒地に大きな影がかかる。村人達が疑問に思い、空を見上げる。
そこにいたのは一匹の巨大な飛竜であった。それは平和な村の上空を何回か旋回した後に、ゆっくりと降りたってきた。
「 エリクー!!調子はどうだー?遊びに来たぞ! 」
それに乗っていたのは、エリクの兄ウルトと彼に寄り添う複数人の美女達であった。
─────────⋯⋯⋯⋯
「 この子達は、村をつくる過程で知り合ったんだ。みんないい子達なんだっ!! 」
満面の笑みのウルト、エリクが3ポイントを使って出した大きなブルーシートに座っている。
お客さん達を地べたに座らせるわけにはいかない為、急遽用意したのだ。
ウルトが紹介してくれたのは、5人の女性達だった。全員タイプの違う美女である。
エリクは彼女達を見るとしばらく黙り、ゆっくりと後ろを振り向いた。そこには屈強な男達と他ニ名がいる。悲しげに頷いたあと、エリクは前を向いた。
「 ちょっと、なんなの!!その反応は!! 私をこの集団の一部にいれないでよねっ!! 」
「 仕方がない、うちの村には華がないからな⋯⋯ 」
「 アル、あんたも酷すぎるでしょ⋯⋯唯一の可憐な女の子を前にして⋯⋯ 」
「 ⋯⋯か⋯⋯れ⋯⋯ん⋯⋯? 」
「 いきなり言語機能が退化しすぎでしょー!! 」
エリクの後ろで盛り上がる2人。そんな時に1人衝撃を受けたような顔をした男がいた。エリクの兄ウルトである。
「 ⋯⋯なんて美しいんだ⋯⋯⋯⋯ 」
「 ウルト兄さん?どうかしましたか? 」
ウルトは、ある一点を見つめて瞳をキラキラさせている。その輝きたるや結晶となってこぼれ落ちそうなほどである。
突然におかしくなった兄の視線の先をエリクはたどっていく。そこにいたのはアロマだった。
「 ⋯⋯君は素晴らしい 」
そう呟くとよろよろとアロマに近づいて行くウルト。美女達が驚いたあと、アロマを睨んでいる。
それもそのはずである。美女達はそれぞれ別々にウルトに救われており、彼に惚れていた。しかしウルトは皆を平等に扱い、どんなに誘惑しても決して靡いてはくれないのだ。女性に聞き心地のいいことは言っても、たった一つの愛は囁かない。そんな男であったのだ。
それがどうであろうか。はじめて会った女性に目を奪われ夢中になっている。相手を恨めしく思ってもおかしくはない。
ウルトは、とうとうアロマの目の前まで来ると徐に手を伸ばした。アロマは完全に引いている。
「 ひいぃぃ〜!!何なのあんた!!こわいわよっ 」
「 だめだっ!!もう我慢が出来ないっ!! 」
───むぎゅっ
「 ぬもっ!!ぬももももーーん!! 」
「 ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯触り心地もたまらない 」
アロマの腕の中から水の大精霊をひったくり触りまくるウルト。アロマは魂が抜けたように佇んでいた。他の村人達はそんな彼女ににあわれむような悲しげな目をむけていた。
「 ⋯⋯何で私が振られたみたいになってんのよ 」
自分を取り戻したアロマが村人達を睨みつける。村人達は一斉に視線をはずした。
燈凪は慣れない鼻歌を口ずさみ、息子の黒凪はヒューヒューと下手くそな口笛を吹いている。ある意味、似た者親子である。
「 ぬもんっ!!ぬもも、ぬももっ!! 」
「 離すものか!!君は俺と一緒に来るんだっ!! 」
それを聞いたエリクを含める村人連中は一斉にウルトの方を見た。そして一斉に話し始める。
「 絶対に駄目です!!オーシャンはもう大切な村人の一員なんですよ。何故か幸せポイントもはいりますし!! 」
「 そうよ!ヌメリンは洗顔剤と美容液と保湿液を兼ね備えた貴重な存在なのよっ!! 」
「 そうだ、ミズリーナ一世は村に必要な存在だ 」
「 水太郎は可愛くはないが、癒しをくれる奴だな 」
「 体液ヌメオは、俺の火傷を治してくれたんだ。⋯⋯感謝してるぜ 」
「 そうっす!!ぬめキングを最初にゲットしたのは俺らっすよ!! 」
「 ⋯⋯えっと⋯⋯無断入村生物は無断ではなくなったから、村人だ 」
村人達に一斉につめ寄られ少しひるむウルト。だが水の大精霊を離すことはない。
「 ⋯⋯そうか。⋯⋯なら勝負だ!! 」
左腕に水の大精霊を抱え、右手でエリクを指さしウルトは叫ぶ。炎に燃えるウルトの目を見たエリクはごくりと唾を飲み込んだ。
「 その勝負、受けて立ちましょう⋯⋯ 」
「 ⋯⋯ふっ、そうか。エリク、お前もなかなかいい目をするようになったな。男として成長したんじゃないか?⋯⋯だが、まだ甘いな。お前が果たして兄であるこの俺に勝てるかな? 」
「 舐めてもらっては困りますね。僕は別の世界で修行もしたんですよ。こういうときの “ 勝つ ” 方法は心得ているんですよ 」
「 なんだと⋯⋯何か作戦でもあるのか? 」
「 勝負は神の子である僕らではなく、村人同士でやってもらいましょう。ウルト兄さんはそこの美女5人、僕も村人の中から5人選びます。5回違う方法で勝負するんです 」
「 そんなっ!!男の勝負から逃げるのか!? 」
「 逃げるとは人聞きの悪い⋯⋯。ウルト兄さんこそ弟相手に無理に魔法で戦わせる気ですか? ここは僕の村です。神の子同士の戦いで壊されたくはないですから⋯⋯ 」
「 ⋯⋯くっ、そうか。わかった。戦う方法はどうやって決める? 」
「 それぞれ得意なものでいいですよ。僕は2つ決めますから、ウルト兄さんは3つ決めてください 」
「 いいのか?こちらに優位にして。後では変えられないぞ⋯⋯ 」
「 望むところです 」
そう言うと各自、自分の村人のもとへ作戦会議に向かう。
エリクも真剣な表情で村人を集めて言った。
「 絶対に負けられない戦いです 」
村人達も神妙な面持ちで頷く。
「 まずは水の大精霊の呼び名を統一させましょう。話はそれからです⋯⋯ 」
本戦を前に激しい戦いを繰り広げる村人達であった⋯⋯。