第六十五話 無断入村生物②
海鮮料理を大変美味しくいただいた数日後、エリクは鼻歌を歌いながら学校の裏にある空き地に向かっていた。
目的はゴミを焼却するためである。
学校の裏にある空き地には村人の生活で出たゴミを捨てる場所があり、そこで定期的にエリクが焼却を行っているのだ。
魔法で浄化しながら焼却するので、体や自然に有害な物質は発生しない。
地球の公害問題などを考えると、エリクは魔法の力が非常に便利であるとしみじみと実感することが出来る。しかし、代わりと言えばおかしいが、この世界には魔物という凶悪な存在がいる。それ等が人的被害を及ぼし自然を穢す事も多いので、どちらがましなのかはエリクには判断出来なかった。
「 よいしょっと⋯⋯ 」
ゴミ捨て場にたどり着くと、エリクは持っていたゴミ袋を地面に置いた。地面に穴を掘っただけのゴミ捨て場には、結構な量のゴミが溜まっている。
と言っても、この村の住人は日常生活であまりゴミを出さない。そのため、溜まるには結構時間がかかるのだ。今日は偶々穴がいっぱいになる日であっただけである。
「 では、焼却しましょうか。⋯⋯ん、今何か動いたような 」
ゴミ捨て場に溜まったゴミの中で、何かがもぞもぞと動いている。
一瞬虫系の魔物かと思い、エリクは日本で嫌われていた例の黒光りをするあいつを想像をして、背筋がぞわりとした。だが、近くに魔物の気配はない。
エリクが感じるのは火の精霊の気配だけであった。
というのも、エリクがここで火の魔法を使うことによって沢山の火の精霊が住み着いてしまっているからだ。神の子の魔力の痕跡は精霊達にとってかなり居心地が良いので、自然とそうなってしまう。
「 おーい! 」
エリクは勇気を出して、もぞもぞする何かに声をかけた。
声をかけられたそれは、動きを止めゴミから抜け出す。
空中で羽を広げ、太陽を背に神々しく羽ばたくそれの瞳はキラキラと輝いている。その姿は見るからに鳥であるが、首から上の部分には羽毛は一切生えていない。
そう、まごう事なきハゲワシであった。
「 ぼあっ! もあもああー!! 」
エリクには理解出来る。この生物は『 俺は火の大精霊だ! 今日からここに住むぜ!! 』と言っているということが。
「 オーシャンにしてもこの生物にしても、何故この村に住み着く大精霊はちょっとキモかわ路線なんでしょうか⋯⋯ 」
この世界の水の大精霊は、全てがオオサンショウウオのような見た目をしているのでは決してない。シセ大陸にいる水の大精霊は美しい水竜だとアルクリースからエリクは聞いたことがある。
この村に集まってくる大精霊が偶々キモかわ路線なだけなのである。
エリクの独り言を気にせず、ハゲワシに似た火の大精霊の幼体は辺りを飛び回る。ひとしきり飛び回った後、楽しそうにエリクの肩に止まった。
体長は1メートルほどあり、足の先にある爪は鋭いため、普通の人間なら驚くところだが、相手が害のない精霊だと分かっているエリクは少しも動揺しない。
「 もあっ! ぼわんぼぼ 」
「 住むのは良いですけど、ゴミを漁るのはやめてください 」
「 ⋯⋯もあん 」
「 いや、怒ってないですよ。村人達と仲良く出来るのなら問題ありません 」
「 もああ、もあもあん 」
「 大丈夫ですよ。見た目は確かに可愛いとは言えませんが、声は割と可愛いですし、村人達は優しい人達ばかりですから 」
「 もあー! もあー! 」
「 ふふふ、嬉しそうですね 」
普通の人には理解出来ない会話をするエリクと火の大精霊。精霊の言葉が分かるのは神の子ならではの能力である。ただし、一部黒凪のように精霊と親しくなることで言葉が交わせるようになった者は例外だ。
「 仮でもいいので名前をつけてあげないといけませんね。⋯⋯うーん、ハゲワシ、鳥、悩みますね 」
「 あれ、村長か。そんなところで何してるんだ? 」
エリクは声の聞こえてきた方を見た。
その声の主は上空からゆっくりと降りてくる。見たことのない果実がいっぱい入った籠を持つ、有翼族のナツキノであった。
「 あ、ナツキノさん。里の皆さんはどうでしたか? 」
「 みんな元気だった。マグロも喜んで受け取ってくれた。それでお礼にって山の木の実を大量にもらったんだ 」
「 そうですか。喜んでもらえて良かったです。今度は遊びに来て欲しいですね。僕も一度ナツキノさんの家族に会ってみたいです 」
先日解体したマグロを手土産に、ナツキノは少しの間里帰りをしていた。
風切りの里の有翼族達は久々に帰ってきナツキノを出迎え大変喜んだ。その夜は一晩中宴が開かれたくらいである。
空を飛べばそれ程まで時間がかからない距離に里はあるのだが、月野の弟子として彼の側を離れたくないナツキノは、自分からは里帰りをあまりしたがらない。
今回もマグロのお裾分けをエリクが持っていくように言ったので、それなら仕方ないと渋々里帰りしたのだった。
「 家族に次は遊びに来るように言っといた。この村は楽しいところだからな。きっとみんな気に入ってくれる 」
「 そうですね 」
「 ぶわー♪ 」
しばらくほのぼのとした雰囲気で微笑む二人と一精霊。
「 で、そのカッコいいハゲワシは村長のペットか? 」
「 もわわっ!? 」
ナツキノはエリクの肩に乗る火の大精霊を指差しながら言った。
そのカッコいいという言葉に大精霊は驚いている。
「 この子は今さっきこの村に住むことになった大精霊の幼体です。名前はまだ決まっていませんが 」
肩にいる大精霊を少し指で撫でながらエリクが答えた。
大精霊は気持ち良さそうに目を細めている。
「 名前か。何かカッコいいのがいいな!⋯⋯よく見ると俺の親父に似てるから、族長なんてどうだ? 」
「 族長ですか。それだと村長と微妙に被りますね。うーん⋯⋯よし、ならキャプテンにしましょう 」
「 キャプテンか。どういう意味なんだ? 」
「 隊長とかそういった意味です 」
「 カッコいいな。よろしく、キャプテン! 」
その場のノリで決まった火の大精霊の名前。ナツキノは早速その名前で大精霊に呼びかける。
「 もわっ、ぼわ〜♪ 」
「 ふふふ、喜んでいるみたいです 」
「 なんて言ってんのかは分からねーけど、喜んでるのは分かる 」
再びほのぼのとした雰囲気になる二人と一精霊。
すると、思い出したようにナツキノが口を開く。
「 そういえば、“ 喰らう者 ”の住処になっていた一番高い山の頂上に、知らないうちに白いわたの塊みたいなやつが住み着いらしい 」
「 ⋯⋯わたの塊ですか? 」
「 ああ、敵意はないみたいで、宙に浮きながらたまに里まで降りてくるんだ。『 もふっもふっ 』とか鳴いて子供達と遊んでた。里の長老が言うには何か精霊に属するものだって 」
「 この子と一緒ですね 」
「 ぼわんっ! 」
長年巨大な魔物“ 喰らう者 ”に苦しめられてきたスマルワ山脈に住む有翼族達。“ 喰らう者 ”は山脈の中でも一番標高が高い場所を寝床にしていたが、勇者月野によって退治されいなくなったため、その空いた場所に今度は精霊が住み着いたようだ。
普通の人にも視認できるということは、その精霊も大精霊なのかもしれないとエリクは考えた。
「 有翼族のみなさんは風の精霊に好かれているので、そのわたの塊みたいなやつは風の大精霊の幼体かもしれませんね 」
「 風の大精霊が住み着くのは大歓迎だな 」
そんな会話を二人がしていると、学校の方から竹箒を持った月野が走ってきた。
「 おーい、神島ー! 」
「 師匠! ただ今帰った! 」
「 お、ナツッキー! 帰ってきたのか。おかえり! 」
エリクを探していたようだが、里から帰ってきたナツキノに先に声をかけられ喜ぶ月野。ナツキノが里に出かけている間は家で一人になるため、彼は久しぶりに学校の用務員室で寝泊まりをしていた。
この勇者、普段から気丈に振る舞ってはいるが、かなりの寂しがりやなのである。
再会を一頻り喜んだ後、月野はエリクを見た。
「 神島、体育祭の組み分けなんだけどどうする? またくじで決めるか? 」
「 あー、そうですね。なるべく年齢が偏らないようにくじで決めましょう。人数はそこまで多くないので、大人も入れて二組に分けましょうか 」
「 まだまだ小さい村だしな。分かった、くじは作っておく 」
「 はい、お願いします。⋯⋯あっ、そうだ 」
今度開催予定の体育祭について月野と話していたエリク。組み分けの話を聞き、あることを思いついた。
「 普通は白組と赤組ですが、この村らしくオーシャン組とキャプテン組にしましょう 」
良いことを思いついたとはしゃぐエリクを見て、月野は不思議そうに首を傾げる。
先ほど村の一員となった大精霊のことなど月野は知らないため、首を傾げるのは仕方がない。
月野は何かを考えているようだ。そして、しばらくすると閃いたように手を叩いた。
「 キャプテンって俺のことか! 」
自信満々に自分に向けて親指を指す月野。勇者である自分がエリクのいうキャプテンだと確信しているようだ。
「 違います。この子のことですよ 」
だが、その意見はすぐにエリクによって否定された。
そして、エリクは肩に乗っているハゲワシそっくりの大精霊を手で示す。
「 もわっ、ぶわーん♪ 」
紹介された火の大精霊ことキャプテンは、くるっと回り羽根もつかいながら可愛いポーズをとった。その目はキラキラしている。
先ほどナツキノにカッコいいと褒められたことで見た目に自信がついたようだ。
月野はエリクの肩の上で決めポーズをするキャプテンをジーっと見ている。そしてしばらくすると、ハッと目を見開いた。
「 キモっ! 」
勇者月野、この世界では自分に嘘をつかないと決めた男である。
「 ぼ、ぼわわ⋯⋯ 」
「 キャプテンかわいそうに⋯⋯。星弥、ひどいですよ。そんなにストレートにキモいなんて言ったら傷つくでしょうが! せめてキモかわと言ってください! 」
「 でも絶対このままだと子供達が怯えるぞ。キモかわというより、キモこわだ! 」
「 ぼ、ぼわわ⋯⋯ 」
「 あー、更に落ち込んだ。星弥どうするんですか!? このままではかわいそ過ぎますよ! 」
言い合う親友二人。
そんな中、ナツキノは提案を出す。
「 なんかピンクのリボンとか着けて可愛くしたらどうだ? 」
「 良いですね。やってみましょう 」
「 流石俺の弟子のナツッキー、良いこと言うな 」
その後、三人でああでもないこうでもないとキャプテンを装飾していった結果、最終的にまるでハロウィンの仮装のようになってしまったが、彼らはやり遂げた達成感でいっぱいになったのだった。
ちなみに子供達には怯えられた。
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