第六十一話 ディアロック夏祭り②
美味しい屋台の料理でお腹を満たしたエリクは、同じく満足そうなルベライトを連れて他の場所を見回ることにした。
休憩所の地面には、笑い疲れてくたくたのオーシャンと、顔の肌がやけにつるつるになった黒凪が倒れている。彼らをこのようにしたアロマは、結局肉巻きじゃがいも串を食べると言って、既にユリオラを連れて屋台へ立ち去っている。
「 兄貴、あっち、人が集まってる 」
「 あちらにはステージがあるんですよ。一緒に見に行きましょうか? 」
「 うん、行く 」
手を繋いだ二人は広場の真ん中に設置されたステージに向かう。
周りには飲み物などを持った村人達が集まり、揃ってステージ上に目を向けている。
エリク達も興味ありげにそちらを見ると、今はエルフ達が楽器演奏を披露しているようだ。彼らが演奏しているのは、心が癒されるような落ち着いた雰囲気の曲で、聴いていると自然豊かな森の風景が目の前に浮かんでくるようである。
「 素晴らしい演奏ですね 」
「 うん 」
しばらく二人が癒しの音楽に聴き入っていると、急に彼らの演奏が荒々しくなってきた。曲も変わり、まるで静かな森から、嵐の吹き荒れる大地に変わったようだ。
そして、ステージ上にいたエルフ達は何故か脇に下がっている。楽器も移動させて演奏は続けているが、彼らが主役ではなくなったようである。
「 一体、何が起こるんでしょうか⋯⋯ 」
「 兄貴、上 」
ルベライトに言われエリクが空を見上げると、そこにいたのは五人の羽ばたく有翼族達であった。五人とも若い青年のようで、嘴のついた不思議な柄の描かれたお面をつけている。彼らはゆっくりとステージ上に降り立つと大きな雄叫びをあげた。
そして、荒々しい音楽に合わせて力強い踊りを始める。真ん中の青年を中心に、左右の青年達が動きを合わせていて息がぴったりだ。
そんな彼らを見ながら、周りにいる女性の有翼族達が黄色声援を送ったり、ダローア王国出身の子供達が驚いたりしている。
「 そういえば、今日は里からもお客さんが来ているんでしたっけ 」
祭り開催が決まった次の日、ナツキノが故郷の里に帰り、何人かの手伝いを呼んできたという話はエリクの耳にも入っている。ステージ上で踊っている彼らの一部や、祭りに遊びに来ている何人かはその呼ばれた有翼族達であろう。
エリクはステージの設置はしたが、どんなことをするのかはステージ係の月野やナツキノに任せたため、内容自体は初見なのである。かろうじて真ん中の青年がナツキノであることは分かるが、他の面々は分からない。
「 ナツキノさん⋯⋯素敵 」
エリクとルベライトが力強い踊りに圧倒されていると、いつの間にか隣にミールムが立っていた。彼女はきらきらした目で、ステージ真ん中て踊るナツキノを見つめている。まさに恋する乙女である。
「 ミールムさん、串もの屋台は休憩ですか? 」
「 あ、村長さん。はい、この踊りを見たくて休憩にしてもらいました 」
感動したようすのミールムと一緒にナツキノ達の踊りを眺めるエリク達。
翼を使い風を起こしながら踊る姿を見て、ふと、何かに気づいたようにルベライトがエリクに話しかける。
「 兄貴、俺知ってる。あれ求愛行動だ 」
「 えっ、ルーベ君どこでそんな言葉を覚えたんですか!? 」
「 サリルが踊りは好きな人を惹きつけるためにするって言ってた 」
「 な、なるほど。でもそれは鳥の話ではないですか? 」
「 ⋯⋯そうなの? 」
そんな話を兄弟がしていると、それを隣で聞いていたミールムが顔を赤らめ始める。
「 き、求愛行動⋯⋯ 」
「 ミールムさん、大丈夫ですか? 」
だんだんと顔の赤さが増すミールムに、心配げにエリクが声をかける。
「 ナ、ナツキノさんが⋯⋯き、求愛行動! 」
「 ミールムさん! 」
ふらつき倒れそうになったミールムを、隣のエリクが慌てて支えた。彼女の顔は真っ赤になってしまっている。
「 すみません、村長さん。任せてください 」
どうしたものかとエリクが困っていると、串もの屋台の方から彼女の兄ガトルムがやってきた。
ガトルムはエリクに謝ったあと、ふらつくミールムを支えながら休憩所に連れて行く。ミールムを長椅子に寝かせた後、氷水を使って絞ったタオルをアルクリースから借りて、彼女のおでこに乗せている。
それを遠目に見て大丈夫そうだと安心したエリクは、再びステージ上に視線を戻した。
ナツキノ達の踊りは周りを存分に盛り上げた後、息の合った『 はっ!! 』という雄叫びとともに終了する。
そして彼らがステージからはけていくと、その場にはいつの間にか月野が一人立っていた。
彼は前日にエリクに頼んで出してもらっていた黒い浴衣を着て、手にはマイクのようなものを持っている。
実はこのマイクのようなもの、月野がマルクセルとガブリダリオスに頼んで作ってもらった魔道具であった。内蔵されている精霊の石の力によって、音の振動を大きくする機能がつき、スピーカーがなくとも辺りに声が響くようになっている。
「 聴いてください 」
そんな魔道具マイクを握りしめた月野がそう言うと、脇にいるエルフ達の演奏が始まる。
「 こ、これは⋯⋯! 」
エリクは気づいた。これは有名な洋楽だと。
英語の歌詞を詰まることなく歌う月野。
周りの人々は彼の声に聴き入っている。
この曲を初めて知る人が聴いたとしても、彼の歌が上手いことは自然と理解できる。例え歌詞の意味が分からなくとも、それだけ聴き手の心に響く歌声なのだ。
何曲か歌い終わった月野は最後に、地球に向かってくる小惑星の軌道を変えるあの映画の主題歌を歌いきり、拍手喝采の中ステージ上から降りた。
「 ありがとう、ありがとう 」
拍手をする周りの人々に小さく手を振り、澄ました顔の月野がエリクに向かって歩いてくる。
「 ⋯⋯いつの間に練習したんですか? 」
「 神島が屋台料理を燈凪達に教えている間、俺はペンションでエルフ達とともに日夜練習していたんだ。わざわざアルクリースに防音の魔法をかけてもらってな⋯⋯ 」
「 日本でなら英語歌唱力ひけらかし野郎と罵っていたところですが、村人達も大変盛り上がっていたので、今回は素直に良かったと僕も褒めてあげますよ 」
「 ふっ、ありがとう 」
まるで歌謡祭に呼ばれた大物歌手のように振る舞う月野に、エリクは少しイラっとしたが、それが村人達の幸せに繋がるのなら文句はないのである。
月野がステージを降りた後は、再びエルフ達がステージ上に戻り、今度は楽しげな曲を演奏し始めた。その曲に合わせ、出身地や種族の違う村人達が思いおもいの踊りを始める。
音楽にのれそうでのれない動きをしながらそれを眺めているエリクに、月野がまた話しかけた。
「 そういえば、そろそろじゃないか? 」
「 ⋯⋯あっ、そうでした。星弥、ルーベ君を任せても良いですか? 」
「 おう、良いぞ。ルベルべ、肩に乗せてやる 」
月野はエリクの隣で自分を見上げていたルベライトを持ち上げ、肩車をする。
ルベライトも彼は害のない人間だと分かっているので、特に抵抗はしない。目線が上がって嬉しいのか、月野の頭に掴まり、周りをきょろきょろと見回している。
それを微笑ましく見た後、エリクは目的の場所に移動する。
エリクがやって来たのは村から少し離れた場所。周には少し草が生えているだけで、あとは小石や岩しかない荒れた大地である。
村の灯りが少し遠くに見えるそこで、エリクはいくつかの鉄製の円筒と、花火玉を幸せポイントで出した。神島時代の記憶にある花火をイメージして出したので、中身の色や模様など細かいことは分からない。日本の花火大会は細かい演出や順番を決めて打ち上げられているが、素人のエリクにはそんなことは出来ないのである。
手で作業をするのは危険だと判断し、魔法で遠隔操作をする。筒に花火玉を入れ、点火も魔法で行い打ち上げた。
ヒューと音を立て、ババンと夜空に花を咲かす。
真下で見るのは初めてのエリクは、その迫力に圧倒される。自分も楽しみつつ、村人達が楽しんでいることを願いながら、次々と花火を打ち上げていった。
一方、村では村人達が好きな場所で花火を見上げていた。ある人はまったりと家の窓から、ある人は広場で焼きそばを食べながら、ある人は湖で家族と静かに、ある人は塔の上に仁王立ちしながら、それぞれ思いおもいの場所から花火を楽しんでいる。
「 立派なもんだな。六牙国の都の祭りでも打ち上げ花火はあるらしいが、これはすげぇ 」
「 ほー、六牙国にも打ち上げ花火があるのか 」
ルベライトを肩車した月野に、たこ焼き当番が終わった燈凪がやってきた。二人は周りの人々と一緒に上を見上げながら会話をする。
「 村長の村は退屈しないな。ここに来てから新しい発見ばかりだぜ 」
「 そうだろ、俺もいるしな! 」
「 がはは、違いねぇな! 」
そう燈凪と笑いながら空を見ていた月野は考える。
( 元気にやってるか、松田⋯⋯。俺達は元気だ )
そんな彼の想いとともに、この村初めての祭りは大盛り上がりの中、無事終了したのだった。
────────────⋯⋯⋯⋯
次の日、朝の食堂にて。
昨日の祭りの話で子供達が盛り上がる中、月野はいつも通りエリク達と一緒のテーブルにいた。
「 星弥、ご飯とパン、どちらにしますか? 」
「 ルベにっちゃんと一緒がいい 」
「 またシーのまねしたー! 」
「 シエシエもルベルべの真似してるだろ 」
「 むー!! 」
月野が隣で真似をされたと怒るシエルナをからかっている。兄弟のいなかった月野にとって、このやり取りは楽しい時間である。
そんな月野に、エリクは呆れ顔でほかほかのご飯を盛ったお椀を差し出した。
「 星弥、どうぞ。あまり小さい子をからかい過ぎないように、シエルナがかわいそうです 」
「 そーだ、そーだ 」
「 悪かったよ。俺の分のりんごやるから許してくれ 」
「 ゆるす! 」
うさぎ型に切られたりんごを月野にもらい、機嫌の良くなったシエルナ。元からあった自分の分と並べ、嬉しそうに眺めている。
そして彼女の隣に座っている月野は、目の前の炊きたてご飯を眺めた。ご飯からは白い湯気が上がっている。
「 湯気、白い、光、太陽、祭り、祭り、祭り、祭り⋯⋯⋯⋯ 」
いつかのように何かを呟く月野。
『 いただきます 』が終わった後、周りが食事を始める中、彼だけはまた箸に手をつけていなかった。
それを不審げに見るエリク。彼は『 これ、デジャブかな 』と、頭の中で考えている。
「 ⋯⋯はぁ、星弥、どうしました。お腹でも痛いんですか? 」
「 神島⋯⋯ 」
ご飯の湯気を見ていた月野が笑顔で顔を上げる。
「 祭りしようぜ! 」
「 またっ! 昨日やったばかりですよ!! 」
つっこみつつも、呆れ顔のエリク。周りは気にしていないのか、食事に集中している。
「 違う。流石の俺も昨日の記憶はある。祭りと言っても、体育祭だ、体育祭。体育の授業は俺が担当だろ。子供達に日頃の成果を発揮する場をつくってやりたいんだよ! 」
「 本音は? 」
「 俺も楽しみたい!! 」
「 とっても素直! 」
かくして、また月野の思いつきで、秋の終わり頃に体育祭が開かれることになったのだった。
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