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第四十七話 エルフの王子様



 無事にディアロックの村に、バスで辿り着いたエリク達一行。


 ホテル前には、ガトルムとミールムがそわそわしながら待っていた。バスの扉が開くと、ガトルムが心配げに近づいてくる。


「 ラグス様、ご無事ですか!? 」

「 ガトルム、大丈夫だ。何も問題なく、みなを救出できた 」

「 良かったです。今度またこんな事があれば、私も絶対に一緒について行きますからね 」


 今回はバスの定員の問題もあり、迎えに行く人数をなるべく少なくしていた。そんな理由もあり、ガトルムはやむ無くラグスについていくのを、諦めたのだった。


「 ああ、分かった。⋯⋯心配をかけたな 」

「 ラグス様を心配をする事については、私は慣れています 」

「 ははは、そうだな。ガトルム、中に乗っている者達は大変疲れている。ホテルの部屋まで案内してもらえるか? 」

「 はい、分かりました 」


 バスから、驚いたようすの乗客達が降りてくる。まさか本当に、穢れた地と呼ばれるディアロック地方に、こんなに発展した村があるとは思っていなかったのだろう。

 ガトルムは彼らをホテル内に案内するために、手で誘導を始めた。ミールムも体の弱い女性や子供を中心に、声をかけながらホテル内に入る。

 乗客達も疲れて休みたいようで、移動は難なく行われた。

 それを見届けたエリクは、バスの収納スペースを開ける。そして腕を伸ばすなどの準備運動を軽く行った。


「 さてと、僕達は荷物を降ろしましょうか 」


 エリクがそう言って、手前の荷物に手を伸ばした時である。


 ──すう⋯⋯すう⋯⋯すう⋯⋯


「 ん? 何か音がしませんか⋯⋯? 」

「 音? 」


 きょろきょろとしているエリクを、一番近くにいたラグスは不思議そうに見た。


「 何か音が聞こえるんです。まるで、寝息のような⋯⋯ 」


 エリクは音源を探るために、耳をすませた。よく集中してみると、その音が収納スペースの奥から聞こえてきていることが分かる。


「 みなさん、どうやらこの奥から聞こえるようです。僕が確かめるので、後ろに下がってください 」

「 大丈夫か、神島? 」


 興味ありげに近づこうとする月野を手で制し、エリクはバスの床下収納スペースの奥を覗き込んだ。

 そこでは大きな荷物の影に隠れるように、エルフの青年が気持ち良さそうに寝息を立てていた。


「 んー、⋯⋯リン⋯⋯迎えに⋯⋯むにゃ 」


 丁寧に寝言まで言っている。エリクはその寝言から、彼がアルクリースの娘であるリングリラの知り合いだと判断した。

 周りで見守っていたラグス達に、その情報を伝える。


「 どうやら、リンさんの知り合いらしきエルフさんが、中で寝ているようです 」

「 村長、なら俺がひとっ飛びして、リングリラを呼んでくるぜ 」

「 よろしくお願いします、ナツキノさん 」


 ナツキノがここから湖を挟んで向かい側のペンションに、リングリラを呼びに行った。

 それを見送ったエリクは、もう一度エルフの青年の様子を確かめる。所々汚れているが、一目で高価だと分かる身なりをしている。髪もごわついておらず、緩やかに波打つプラチナブロンドが美しい。

 それらから、彼がある程度の地位を持った人物である事が察せられた。

 エリクは青年の肩を軽く揺らして話しかける。

 

「 大丈夫ですか〜? 」

「 むにゃむにゃ⋯⋯リン⋯⋯脚 」

「 脚⋯⋯!? そう言えば、リンさんが前に脚について、何か言っていたような⋯⋯? 」


 思い出そうとエリクが首を捻ったところで、眠っていた青年が勢いよく目を覚ました。


「 はっ! ここはどこだ! 余は確か、怪しげな機械に乗り込んで⋯⋯ 」


 青年はエリクを無視して、収納スペースの外に出てた。湖を眺めながら慌てている。手を広げ、大きな動作で辺りを見渡している。実に躍動感がある動きだ。


 エリクは、そのミュージカルのような大袈裟な彼の様子を見て、少し引きつつも勇気を出して話しかけてみた。


「 あの⋯⋯、大丈夫ですか? ここはディアロックの中心辺りにある村ですよ 」


 青年はその声に反応して、素早くエリクの方に振り向いた。

 そして、エリクを一瞥した後、すぐにその切れ長で涼しげな目を見開いた。エリクの後ろにあるホテルを、驚いたように見上げている。


「 ディアロックだと!? そんな土地に、こんなに大きな建築物があるなんて、余は聞いた事がないぞ!! 」


 青年はまたエリクに視線を戻した。次にラグスやマルトル、月野にも視線を移し、何かを考え込んでいる。

 そしてしばらく経った後、青年は突然大声をあげてエリク達を指差した。


「 あー!! さては、お前達が余の妃を攫ったのだろう! そこにある珍妙な機械で、無理やり人々を連れてきて、ディアロックの地で奴隷のように労働させているのか!! 」

「 違います、違います! どうしてそんな結論に至ったんですか!? 僕らは善良な人間ですよ! 」

「 悪者は必ずそう言うものだ!! お前達のような悪者は、余が直々に懲らしめてやる⋯⋯ 」


 エルフの青年はそう言って頬を膨らませた。彼なりに怒りを表現しているようだが、見ている方は全く怖くない。


「 神島、こいつどうすんだ? なんか言葉が通じなさそうだけど⋯⋯ 」

「 確かに、これはリンさんが到着するのを待つしかありませんね 」

「 何をコソコソ話している! 余は4対1でも負けぬぞ⋯⋯ 」


 姿勢良く立ち直し、青年は微かに笑みを浮かべながら、エリク達に手招きしている。

 彼は実力に自信があるようだが、エリク達には全く戦う意思がないため、ただ膠着状態が続くだけである。


「 ラグスさんとマルトルさんは、ホテルに入ってください。⋯⋯この人は、僕達に任せてもらって大丈夫ですよ 」

「 わ、分かった。ではまた 」


 ラグス達には今後の話し合いなど、これからやる事が多いと思ったエリクは、彼らにはこの場から離れてもらう事にした。

 ラグスとマルトルも、この場で自分達に出来る事は特にないと判断して、エリクを心配しながらもホテル内に入っていく。


 その場には、エリクと月野、その正面に佇むエルフの青年だけが残された。


「 仲間を呼びに行かせたか⋯⋯。何人呼んでも同じだがな⋯⋯ 」

「 ちょっと待っていてください。ただ今、他の人がリンさんを呼びに行っているので⋯⋯ 」


 そう、エリクがリングリラの名前を口にした途端、青年は今までにない程の怒りを露わにした。


「 リングリラをリンと呼んでいい男は、彼女の家族と余だけだ⋯⋯ 」


 青年は懐から小さな金のメダルを取り出すと、それを右手で空中に投げた。


「 火の精霊よ。余に力を貸してくれ 」


 そう言った彼の右手に、火の玉が発生する。それは揺らめきながら膨張していく。

 火の精霊に金のメダルを捧げ、魔法を使おうとしているようだ。

 エリクと月野は顔を見合わせて、お互い嫌な汗をかいている事を知った。二人とも、ここまで話を聞かない上に攻撃的な人物に、会った事がなかったからである。


「 どうする神島? 俺は攻撃魔法無効化の能力があるから大丈夫だけど、村がやばいぞ 」

「 分かっています。でも無理に止めて、暴走されたらたまりません。あれを放出された後、すぐに魔法で封じ込めます 」

「 リンは余の妃だ! お前達から絶対に取り戻す! 」


 月野とエリクが話している間にも火の玉は大きくなる。直径3メートルほどになったところで、青年はそれをエリク達に向けて放った。

 ゴウゴウと音を立てて近づいてくる火の玉に、エリクは両手をかざす。

 すると、火の玉は光の渦に閉じ込められた後、力を失ったように消え去った。

 それを見た青年は、信じられないといった表情でエリクを見ている。


「 なんだと!! 余の攻撃を消し去るとは、お前は一体⋯⋯ 」


 そんな時、複数の足音とひとつの羽音が聞こえてきた。


「 村長、師匠! 連れてきたぜ 」


 使命を果たし、自慢げな様子のナツキノが空から降りてくる。

 足音の方向には、アルクリースとリングリラが走って来ているのが見えた。


「 そこのエルフー!! 何、村長さん達に火の玉打ってんのよー!! 」

「 ⋯⋯リ、リンではないか! 余の妃よ、迎えに来たぞ!! 」


 リングリラの姿に気づいた青年が、彼女に向かって駆け出した。頬を染め、感動の涙を流しながらリングリラの名前を呼んでいる。


「 リンー! リンー! リ、ぐわぁっ!? 」


 リングリラは走ってきた勢いのまま、無表情で青年の首元に右腕を打ち付けた。

 エリクと月野は知っている。あれは、プロレス技のラリアットである。


「 リ⋯⋯ン、なんで⋯⋯ 」


 青年は倒れこみ、リングリラの脚に縋りつこうとしている。その手つきは、少し艶めかしさを感じる動きである。

 リングリラは顔を顰めながら、その手を避けた。


「 まだ手紙も出してないのに、どうして私の居場所が分かったんですか、マルクセル!? 」

「 リン、愛の力があればそれくらい容易だ。余は君のことなら何でも分かる⋯⋯ 」

「 ひー! なんか気持ち悪いです。今も脚ばっか見てるし 」

「 いや、今はリンの攻撃で地面に転がっているから、自然と視線が低くなっているだけで、別に脚を好んで見ているわけではないぞ。リンが見て欲しいなら、余は喜んで見るがな⋯⋯ 」

「 いやっ、助けてお父様!! 」


 脚をまじまじと見つめられ、心から嫌そうな声を

あげたリングリラは、アルクリースの後ろに隠れた。

 アルクリースは眉を下げて、困ったように倒れている青年に手を貸し、立ち上がらせる。


「 マルクセル王子、久々だな 」

「 おお、アルクリース殿ではないか! 貴方もリンを助けに来ていたのか? 」

「 いや、マルクセル王子。私はこの村に世話になっていて、リングリラはそんな私を捜して、この村を訪れたのだ 」

「 なんと、そうだったのか!? 」


 そこでやっと、見事なラリアットに驚きホテル前で立ち尽くしていたエリク達が、その場に走ってやってきた。

 エリクがアルクリースの方に話しかける。


「 アルさん、この方はもしかして、リンさんの婚約者の⋯⋯ 」

「 お前、またリングリラの事をリンと言ったな。 リンは余の妃になる女性だぞ! 」


 マルクセルと呼ばれた青年は、またエリクに強い敵意を向けた。今にも掴みかかりそうである。どうやら先ほどの怒りも、嫉妬によるものであったようだ。


「 マルクセル、村長さんを睨むのはやめてください。私がみんなにそう呼んで欲しいと頼んだんです! 」

「 リン、何故だ!? 」

「 村のみんなと仲良くなりたかったからです 」

「 そんな必要ないだろ? リンには余がいるではないか? 」

「 ⋯⋯⋯⋯ほら、お父様、やばい奴でしょ? 」


 リングリラはアルクリースの後ろに隠れながら、問いかけた。その顔は、婚約者の異常さを父親に伝える事ができ、少し嬉しそうである。


「 はあ⋯⋯。ひとまず家で落ち着いて話そう。このままでは村長達に迷惑をかけてしまう。⋯⋯いや、もうかけているな 」


 アルクリースは深いため息を吐きながら、ガルガルとエリク達に威嚇するマルクセルを、ペンションへと案内するのだった。



お読みいただきありがとうございます。

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