第十五話 オーガごっこ
オーガごっこ、それは至って単純なルールの遊びである。
何人かがオーガ役になり普通の村人役の者を追いかける。村人役は捕まったら食糧庫と呼ばれる場所に移動する。他の村人役は食糧庫から捕まった者を助け出せる。村人役全員が捕まればオーガ役の勝ちである。そして捕まった順番が早かった者何人かが次のオーガ役になる。
「 ⋯⋯で、結局はティアラさんと四歳以下組以外は参加するんですね 」
うきうき気分で多目的ホールに集まった面々をエリクは見回しながら言った。
「 村長、当たり前だろ!! 俺ら獣人は走り回るのが大好きなんだよ 」
「 親父の言う通りだぜ!! 俺は走り足りなくてうずうずしてたんだぜ!! 」
「 俺もっす!! 」
「 ⋯⋯やってやる 」
獣人四人組がめらめらとやる気をだしている。子供相手ということを忘れていそうである。
「 これはここより広い体育館でやった方が良さそうですね。皆さん僕の前に一列に並んでください。動きやすい服と運動用の靴を渡します 」
村人達は大人も子供もエリクの前に列をつくり、必要なものをもらっていく。そして獣人達は自分の貰ったものだけ他の村人より多いことに気づく。疑問に思った黒凪がエリクに尋ねる。
「 なんか余分に渡されたぞ? 」
「 足につける重りです。あなた達が子供相手に調子に乗りすぎないようにしました 」
そこで獣人達より早く声をあげる者がいた。
「 村長!! 不公平だ!! 私にも重りをくれっ!!できれば、 全身につけるやつを頼む!! 」
「 ⋯⋯アルさん。いいですけど、重りは足首用と手首用しかないんですよ 」
「 なら、それを貰おう 」
エリクはアルクリースに言われたものを渡した。アルクリースは満足気に笑みをこぼした。
「 アルクリースのせいで俺達がなにか言う隙がなかったぜ⋯⋯ 」
「 皆さん着替えて体育館に集合です。 体育館の更衣室までは案内します 」
なにか言いたそうな黒凪はエリクに無視をされた。
そして村人達は体育館へと向かうのだった。
「 皆さん着替えましたかー? 準備運動をきちんとしましたかー? 」
「 「 「 「 はーい!! 」 」 」 」
エリクは体育館で耳の横に手を添えて村人達の返事を聞いた。
「 あれー、子供達の声が小さいですよー!! 野太いおじさんみたいな声しか聞こえないですねー!! さぁもう一回、準備はいいですかー? 」
「 「 「 「 はーい!!!! 」 」 」 」
エリクはまた耳に手を添えて返事を聞く。
「 はい良くできましたー!! でも何故か比例して野太いおじさんの声が大きくなったので、結局はそれしか聞こえませんでした⋯⋯ 」
「 村長、最初のオーガ役はどう決めるんだ? 」
野太いおじさんの声筆頭の燈凪がエリクに質問する。エリクは少し考えた後、口をひらく。
「 最初は子供達と大人達で二人ずつ立候補でいいでしょう。僕はオーガに立候補しますよ 」
「 ⋯⋯そうか、では私がもう一人のオーガ役に立候補しよう 」
アルクリースがエリクに続いてオーガ役に立候補した。子供達も相談して同い年のカルとローナに決まったようだ。
「 皆さん頑張ってくださいませ〜。応援してますわ〜 」
「 リステルお兄ちゃんがんばれ〜!! 」
「 がんばれ〜!! 」
「 ばぶっ!!ばえー、ばえー!! 」
ティアラとミナリア、キルト、マールの四歳以下組が離れたところで応援をしている。それに対してリステル少年は笑顔で手を振って応えている。
「 アテナちゃん、私達も頑張るわよ!! 」
「 はいっ、アロマさん!! 」
いつの間にか起きてきていたアロマがアテナと一緒に腕を伸ばしたりしてやる気を見せていた。
「 では皆さん逃げてください。体育館内だけですよ。十、数えたら追いかけはじめます 」
エリクがそう言うと村人役の者達が楽しそうな声をあげながら散らばっていく。
「 ───⋯⋯八、九、十!! 追いかけますよー!! 」
「 やってやるぞ!! 」
「 カル、はしゃぎすぎてこけないようにね 」
「 わかってるってローナもな 」
カルとローナが村人役を追いかけていく。
エリクは走り出そうとしたところで、ふと気づく。隣のアルクリースが動こうとしていないことに。
「 アルさん、追いかけないんですか? 」
「 食糧庫を見張る役割が必要だろう。私がそれを引き受けよう⋯⋯ 」
「 なるほど、わかりました。捕らえた村人の監視役は任せます 」
「 ああ、任された 」
子供達のはしゃぐ声の響く中、エリクが最初に追いつめたのはやる気を見せていた少女二人であった。
「 アロマさん、アテナさんをこちらに渡してください⋯⋯ 」
「 なんでアテナちゃんだけなのよ!! 私も村人役なんだけど!! 」
「 アテナさんを追いかけ回すのはなんだか申し訳ない気になりますから、早めに捕まえておきたいんです 」
「 なによそれ!! 私は別に追いかけ回していいってこと!? 」
「 問答無用ですっ!! 」
がばっと二人に距離をつめるエリク。咄嗟にアテナを庇うアロマ。偶然にもエリクがアロマを抱きしめる形となった。
「 ⋯⋯きゃー!! 変態っー、離れてよ!! 」
「 男の風呂場を覗くような女性に言われたくありませんっ!! 」
「 えっ!! アロマさん、覗いたんですか!? 」
「 ちょっと、アテナちゃんが誤解するようなこと言わないでよ!! 誤解よアテナちゃん 」
「 ⋯⋯そうでした。覗きではなく堂々と乱入の間違いでしたね 」
「 堂々と乱入!! 」
エリクは文句を言うアロマとショックを受けるアテナをまとめて食糧庫の場所に連れていった。
「 後で可愛がってやる⋯⋯ 」
「 エリクっ!! あんた役に入りすぎよっ!! 目がこわい、目が 」
エリクは不敵に笑うと次の獲物を探しにいった。アロマが隣のアテナを見ると赤くなって立ち去るエリクの後ろ姿を見つめている。
「 ⋯⋯素敵 」
「 ⋯⋯えっ? 今ので、なんで? 」
一方でカルとローナは燈凪達獣人組を追いかけていた。だが、思うように追いつめることができないようだ。
「 おっさん達、子供相手に大人気ねーぞ!! 」
「 子供に思うようにいかない辛さを教えてあげるのも大人の役割だろ。悔しければ追いつめてみせろっ!! 」
燈凪が笑いながらカルを挑発している。
その時、ローナが足をもつれさせてこけてしまう。
「 大丈夫か、 嬢ちゃん!! 」
そのまま起き上がらないローナを心配して黒凪以外の獣人達がカルと一緒に駆け寄る。
ゆっくりと顔をあげたローナは笑顔であった。
「 ⋯⋯あれっ? 」
「 おじさん達、捕まえたー!! 」
ローナの作戦に引っかかりまんまと捕まった三人は呆然としながら食糧庫に歩き出した。
「 ローナやるじゃん!! 俺も騙されたぞ⋯⋯ 」
「 ふふん、まぁね!! 」
自慢げなローナを見ながら一人逃れた獣人、黒凪が呟く。
「 親父達は女に騙された経験がないからしかたねぇ。俺は一人でも生き残ってやるぜ 」
「 黒凪、僕が相手だ!! 」
「 うげっ村長。喋り方変わってねぇか!? 」
黒凪は、目を爛々とさせるエリクの伸ばされた手を身軽に避けた。
「 やるなっ⋯⋯。ではこれはどうだ!! 」
「 ⋯⋯くっ!! それくらい避けられるぜ 」
何度も繰り出されるエリクの手を黒凪は猫のようにしなやかに躱し続ける。実際に猫の獣人なので当たり前である。
そしてカルやローナも見事に避けながら黒凪は周りを見た。いつの間にか自分以外全員捕まってしまっていることにそこで気づく。
「 ⋯⋯くそっ!! 今助けてやるぜ 」
黒凪は地面を蹴り、食糧庫に囚われている者達に向かい走り出した。
「 黒凪さん助けてー!! 」
「 おじさん頑張れー!! 」
捕まった子供達が黒凪に期待の目を向けている。
「 黒凪!! 私を助けてくれ!!」
「 わかったぜ、アルクリース!! 」
黒凪はにかっと笑顔でアルクリースに右手で触れた。
「 まぁ、私はオーガ役なんだがな⋯⋯ 」
「 ⋯⋯えっ!? 」
固まる黒凪と微笑むアルクリース。
その場になんとも言えない生ぬるい空気が流れたのは言うまでもない。
そのあともオーガ役を変え、お昼の時間まで楽しく遊び続けた村人達であった。
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