難聴系主人公なの?
クソ暑いなか校長の長ったらしい開会宣言がようやく終わる。
各列規則正しく、しかしダラダラと自分の席へと戻っていく。
みんなから開口一番に出るのが校長への不平不満だと思ったが違った。
『…あの子だれ? 可愛くない?』
『さっき道着着たオッサンたち一喝してたな』
『かっこよかったあ~誰の応援で来てるんだろ?』
…などなど。
さすが学校。噂が流れるのは早いな。
まあ高校の体育祭で親族が来てるのがまず珍しいし道着の連中が変に目立ちすぎなんだよまったく。だって普通にありえないもん。だから来てほしくないんだっつーのに。
しかもだ。それを追い払ったのが絶賛美少女の中学生ってもんだからそりゃ噂にもなるよ。ちょっと誇らしいもん。…っていやいや。
あと楓が座ってる位置も悪い。なんで観覧席の一番前に座るかなあ。だから注目あびるのに。
いつもは私に見られてる自覚を持てみたいなこというくせに自分にはその自覚が無いらしい。可愛いのは罪。はっきりわかんだね。
「なにも叔父さま帰らすことないのにね」
隣でポツリと呟く。そう言ってきたのは香蓮だった。話したい事でもあったのだろうか。
「別にないけど凛のお父様じゃない。挨拶ぐらい当たり前でしょ? 親友として…じゃなかった。将来の伴侶として」
「言い直す意味はあったの?」
相変わらず何言ってんだコイツは。朝からエンジン全開ですね。いつのまにか隣に座ってるし。早く自分のクラスに戻りなさい。
「嫌よ。凛と敵対なんてしたくないもの」
つーんとそっぽを向く。腹立つけど可愛いのが憎らしい。やはり可愛いのは罪。
「敵対って…。直接いがみ合ってる訳でもなし。それに初めから決まってた事なんだからしょうがないでしょ」
とりあえず宥めてみるけど表情を窺うに無駄みたいである。たださっきも言ったがこればっかりは仕方がないのだ。
体育祭は学年事のクラス対抗戦で行われる。対抗といってもクラス単位であるからして別段力の差はないし盛り上がりもかけるっちゃあ掛けるのだが見てる人もいるから対戦形式にした方が面白いだろう的なノリでやってるらしい。非常にはた迷惑な話しである。
「ホントよ! なんで私たちの仲を引き裂くようなことするの!? 意味わかんない!!」
「意味わかんないのはお前だバカ」
落ち着きなって。
「言ってることと思ってることが逆なんだけどっ!!?」
「あっホントだごめんなさい」
「ひどい! もう絶対離れないんだから!」
「ええぇ…もう自分の席に戻りなって」
香蓮が泣きながら腕に抱き着いてくる。
毎度のことだけどウザい…ウザすぎる。大体アンタがここに居るとさらに面倒くさいことになるんだからね。
香蓮の顔をおもいっきり押しのけていると私の顔に影が差した。
「そこどいて」
怒り心頭とはまさにこのこと。未来が後ろに立っていた。
「あらいたの」
さも気付きませんでしたと言いたげな香蓮。そのわざとらしい態度がさらに未来の怒髪天をつく。
「いたのじゃないっつーの! そこ! 私の席なんだけど早くどいて!!」
「あなたの席って向こうじゃないの? ほらそこ。ぽつんと一人ボッチになってる席。あれでしょ?」
「お前だろ! この学校に友達いない奴はお前しかいないわ!!」
「うわあ…陰湿」
クラスごとで集まってるから基本一人ボッチになるはずがないのだが何故か香蓮のクラスには完全に孤立した席がある。可哀想だが明らかに香蓮のだろう。あれは帰りたくない。
「クッソ目立ってるじゃない。木を隠すなら森とは良く言ったものね」
「それなんの関心なの? ほら早く帰りなさいって」
「嫌よ! 帰りたくない! もう…なんで。なんでわたくしってこんなに嫌われてるの!? 超絶可愛いのに!!」
「そういうとこだ。はよ帰れ」
「冷たい! 凛冷たい!!」
「うるさいなあ…別に昼食までの我慢じゃない。部活対抗リレーも一緒に出るし」
「違うの! っていうか気付いてないの!? 帰りたくない理由は別にあるのよ」
「なによ理由って」
「観覧席に座る妹さんをよ~っく見てほしいんだけど…」
言われ、私と未来は目を凝らして観覧席に目を配る。すると一眼レフを構える楓の姿があった。
「あの子わたくしがボッチでいる所を激写するつもりなのよっ!? ヤバくないっ!? バカにするつもりだわ!」
「被害妄想でしょ」
「ちっがうわよ! 見てみなさいよほらメチャクチャ笑ってるじゃない!? おかしいわよ絶対! あ、ぼっち席撮った!」
「被害妄想だって。思い込みよ」
「絶対違うわよ! わたくしが言うのも何だけど妹さん結構性格悪いのよ知ってる!?」
「思い込み。味噌煮込み」
「ぜんっぜん面白くないわ!」
「はよどけって!」
香蓮が未来によって引っ張られていく。
哀れな光景だけど傍目からみると仲良さげだわ。やったね香蓮。友達ゲットだぜ。
「お断りよ。アイツと友達だなんて」
「またまたあ~これからもよろしくね。香蓮のこと」
「難聴系主人公なの? それより如月がトップバッターよ。早く準備したら」
「あれそうなの? んじゃ行ってきますか」
水筒からお茶を一口含むと拳で手の平を叩く。やる気はそんなにないけどこういうのは楽しんだもん勝ちだもんね。気合い入れていかないと。
「んじゃあ頑張って、如月」
「まっかせなさい。一位とってくるわ」
クラスのみんなから一頻りの声援を受けると私は競技アナウンスに従って開始線へと向かうのだった。
読んで下さりありがとうございます。感想お待ちしております。
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