全員仲間でしょ
体育祭で花火が上がるのは今どきウチの高校くらいだろうか。
最近じゃあ近所迷惑だ何だでやらない所が増えてるらしいけどこういうのも風情があっていいじゃないか。十月を憂う打ち上げ花火。季節外れが心地いい。
こういうのも無くなったらなくなったできっと寂しいと思うけどね。何事も楽しめる度量が人として大切よ。こんなご時世ですもの。
「…でもさすがにこれは無理だわ」
場所は学校グラウンドにて。
体育祭を祝うかのような快晴にみまわれたこの日。開会式前に並んでいると観覧席から応援とも怒号ともつかないような声が聞こえてきた。
『ねえ…誰の知り合い?』
『うわあ…完全にヤクザじゃん』
『怖っ! 誰だよ本物キレさせた奴…』
恐怖に慄いたような不可思議の極みみたいな声がそこかしこから聞こえる。
そりゃそうよね。百九十センチ以上の身長にシュワちゃんみたいな筋肉。分かるわけがないのよ。私のお父さんだなんて。
「…相変わらず強烈ね」
隣で呆れ果ててるのは未来。それ以上に何も言ってこないのは武士の情けか。はたまた只の同情か。まあ何にしろその心遣いは助かる。だってホントに嫌だもん。呼んだ覚えないし。
「じゃあ何で来てるの?」
「知らないわよ。多分だけど、あの花火じゃない? 体育祭の日に打ち上げるのウチの高校だけだし」
前言撤回。
何が風情溢れるやら。今後禁止にすべきである。
「…あーそれで。でも何か前から知ってたんじゃない? だって如月の応援に来てるのお父さんだけじゃないでしょ?」
「…なぜそう思う」
「いや普通に分かるでしょ。体育祭で道着着てる頭の悪い人達、全員仲間でしょ。姉御ぉーとか言ってるし」
「絶対そうね。後で殴っとくわ」
他の保護者が入れないくらいうざい体躯の男たちが観覧席に密集している。完全にクラスターである。
あ、楓がキレ気味でお父さんの方に歩いていったわ。どこにいるかと思えば恥ずかしいから隠れていたのね。でも我慢できないから出て行ったんだわ。これでますます嫌われたねお父さん。
南無ぅ、と手を合わせるとお父さん達はすぐさまそこからいなくなった。
ごめんお父さん。応援は嬉しいけどさすがに大勢&大声で応援されるのはちょっと恥ずかしいかも。あと何で道着でくるの? バカなの?
もう一度手を合わせると、それを待っていたかのように開会式が始まるのだった。
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