俺は最低限気にするよう努めてるだけだ
「…やばいもう無理」
グラウンドに這うように倒れ込む。しばらくすると涼が追いついてくる。当然バテバテである。
「キツイ…きつすぎる…」
全身から湯気を出して愚痴るのは涼だ。端正な顔を歪ませながら話す様は学校では拝めない。結構モテるのにこんな姿を見たら百年の恋も冷めるというもの。
「そこらの女に興味はない。冷めて結構だ」
「あら強がり言っちゃて。案外周りの眼とか気にするくせに」
「黙れ。俺は最低限気にするよう努めてるだけだ。キミは気にしなさ過ぎだが」
「眼鏡曇らせてカッコ付けてんじゃないわよ。もう十キロ行かせるわよ」
「勘弁してくれ。これはもうアップじゃないぞ」
「……まあ確かに」
大きな声が反響して聞こえてくる。
怒声を浴びせながら走ってるのは楓である。楓の前では香蓮や未来がひいひい言いながら走らされている。鬼軍曹か。
「にしても来年受験するとはいってもアイツは部外者だろ? 体育祭に出るのは問題ないのか」
「問題大ありよ。でも体育祭実行委員に知り合いがいたの。覚えてる? 空手部の咲」
「ああ…二年生の」
「そう。しかもたまたま委員長だったの。だからお願いしちゃった。楓も出ていいかって」
「良く快諾してくれたな。ルールには厳しそうだが」
「そこはギブアンドテイクでしょ。私も大会に助っ人で出てるし今度また練習に参加するのよ。練習相手にね」
「なるほどな…しかし何でそこまで勝ちたいんだ?」
「へ?」
「いや…腐れ金髪の為とはいえ無理に楓くんをメンバーに入れることもあるまい。それこそ先輩にリレーメンバーをお願いすれば良かっただろ」
「…勘の良い部長は嫌いだよ」
「なんだそれは?」
「……パロよ。気にしないで」
顔が熱い。言わなきゃ良かった。
「…別にたいした理由じゃないわ。そんなに勝ちたいわけでもないし。ただ辛そうだなって思っただけ」
「楓くんが?」
「うん。あの子ね、昔っから要領悪いっていうか頑張り過ぎちゃうところがあるのよ」
楓は基本何でも出来る。頭も良いし陸上でも良い成績を残している。
でもそれは自分に才能が無い事を知っているから人一倍努力しているだけ。自分のために。期待に応えるために。ようするにあの子は自分に自信がないのだ。
「ほら、私なんて基本楽観的だから適当にやっても何とかなるでしょって感じなんだけど。まあだからこそ見てるとちょっと辛いのよ」
「気分転換のつもりで誘ったってことか?」
「そうよ。はじめは香蓮のためだったけど…どうせ出るならってね」
「…仲良いんだな」
「そう? 別に普通じゃない」
言ってはみたものの私には普通が何なのかは分からない。興味もない。でも決して特別なんかじゃないと思う。
妹を助ける姉なんて。
それこそどこにでもいる普通の姉妹。普通の家族だ。
「…普通か。そうだな」
「そうよきっと。あっ…だから付き合わせてるのホントは悪いと思ってるわ。ゴメンね、涼」
「別に構わん」
「怒ってないの?」
「そんなことで怒るか。むしろ今の話しを聞いてやる気がでた」
「……マジ? どうして?」
「…如月が普通の女子とは違うことを再認識したからだ」
「全然意味わかんないんだけど…」
「分からなくていい。ほら、俺達も練習に行こう」
「ちょ…ちょっと待ちなさいよ!」
さっきまでバテバテだったのがウソみたいな動きを見せる。何がそんなにやる気にさせるのか。まあやる気がないよりかは全然良いんだけど。
私は涼の背を追うように腰を上げると小走りに追いかけるのだった。
読んで下さりありがとうございます。
自粛って暇ですね。仕方ないですけど。
また更新します。




