私は王子じゃないんだけど
「待ちなさいっ!」
全力で追いかける。
私も陸上部って訳じゃないしそれどころか運動部でも無いけど運動神経には自信がある。
並みの人に負けるはずはない。
そう。
それもましてや、
「相手が女性ならねっ! ほらっ観念しなさい!!」
片手で制服の襟を摘まみ上げると残りの二人も観念したように走るのを止めた。
今から待ち受ける未来に絶望してか身体を震わせながら下を向いている。スカートとスカーフが揺れている。
驚いた。本当に女の子だ。
「やっぱり…コイツらだったか…」
「どっから現れてんのよ…」
背後霊よろしくで現れたのは我らが部長の土屋涼だった。
私は驚いたけど本人にとっては必然だったようで、
「こいつらは俺のクラスなんだよ。ターゲットを変えてたんだ。もしかしたら女じゃないのかって」
「ああ…そういうこと」
涼は盗撮の犯人捜しをしてたけど見つからないって言ってたもんね。そらそうよね。きっと男を中心に調査してただろうし。
「なーる。で、それがビンゴだったわけだ。やるじゃない。でも、だったら私にも一言いいなさいよ」
「確信があったわけじゃないからな。それに言った所でキミも信じたとは思えん」
「まあそうかも知れないけどさ。っていーかそんなことは今はどうでも良いわね。ほらアンタ達も観念して顔見せなさい」
言うとゆっくり三人が顔を上げる。と、
「え…ちょっと待ってアナタ見た事あるんだけど…」
「っ! 覚えててくれたんですか!?」
このキラキラした表情は見覚えあるぞ。
確か涼のクラスに行った時に涼を呼んできてくれた子だ。
「そうだ。よく覚えてたな」
「そら覚えてるわよ。この子としか喋ってないもの」
呆れながら答える。
でも覚えていたのはそれだけじゃない。妙に驚いてて騒がしいなとは思ってたのよ。それに今も。この子なんでこんなに嬉しそうなんだろ? しかも何で盗撮?
「わ、私! 実は如月さんの大ファンでして…」
「ファン…? はあ…で?」
開いた口がふさがらない。どういうこと? それって何か関係あるの?
「大ありだ。キミが俺のクラスに来た時、場所を変えただろ? つまりそういうことだ」
「あのねえ…毎度のことながら主語なさ過ぎなのよ。意味わかんないんだけど」
「つまりだ。俺が場所を変えたのはクラスのファンに恨まれたくないから。面倒くさくなるのが嫌だから場所を変えたんだ」
「つまり…?」
「つまり盗撮の件にしてもそうだ。恨みを買っていたんだよ。お前と親しいアイツは特にな」
「…あっきれた」
男子のイタズラか何かだと思っていたけどそれよりも数段下らなくて笑えてくる。嫉妬で盗撮とかバカじゃない。
「…ホントにな」
「…ごめんなさい」
「謝る相手が違うでしょうが。香蓮に今すぐ謝って来なさい」
「でも…」
「でもじゃない! ぶっ飛ばされたくなかったら今すぐ謝って来い!」
「は、はい!」
そそくさと走っていく三人組。
遠くの方で金髪に頭を下げてるのが分かる。
香蓮はバカだけど悪い奴じゃないから謝ればきっと許してくれるはず。
「思ってたより信頼してるんだな」
「そら友達ですから」
あんな子でもね、とは付け足さなかった。
満面の笑みでこちらに走って来る香蓮の姿を見たらそんなこと口が裂けても言えなかった。
単純に可愛かった。
「じゃあ俺は先に行くよ」
「香蓮と話していかないの?」
「俺がいてもケンカになるだけだしな。それに疑ってしまった男子連中に謝ってこないと」
「…私もいこっか?」
「いやいい。お前はアイツの相手でもしててくれ。じゃあな」
そういうと自分のクラスの方へと走って消える。
あまり口数の多い方じゃないけど今日ぐらいはカッコ付けても良いんじゃない? 少しだけ頼りがいがあったのも事実だし。
何だか不思議と笑えてきた。
「ふふっ…あれは損する性格ね」
「りーーーん!」
金髪のお姫様が正面から抱き着いてくる。
私は王子じゃないんだけど姫様には関係ないみたいで、
「ありがとう、凛! ホント大好き!」
「はいはい」
少しだけ涙ぐんでる姿を見るにやっぱり怖かったみたいね。修学旅行中、変にテンション高かったのはその為かも。きっと自分を誤魔化してたのね。
「良かった…本当に良かったわ」
「そうね。これで一安心ね」
子供をあやす母のようにゆっくりと頭を撫でる。
強がってても根本は変わらない。今日ぐらいは存分に甘やかしてやろうじゃないか。
「ホントに?」
「ええ。何でも言ってくれていいわよ」
「じゃあ一緒にお風呂ね❤」
「もちろん良いわよって……は?」
思わず聞き返す。
それは一瞬の油断だった。
胸で中で、ニヤリと笑う香蓮の姿がそこにはあった。
読んで下さりありがとうございました。
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