日大ばりのタックル
鹿苑寺、通称金閣寺は京都市北区にある臨済宗相国寺派の寺である。
バスに揺られること二十分。
私たちは最初の観光場所へと到着した。
「…また、ありきたりですこと」
バスから出るやいなや小さくボヤく。
未来がこちらを一睨みする。
あのねえ…睨む気持ちも分かるけど言いたくなる私の気持ちも分かるでしょ?
「全然」
「うわあ…協調性ゼロね」
「それアナタが言うの?」
「当たり前でしょ? 一番の常識人なんだから」
「アナタが常識人なら私はなに? 神?」
「ぼっちでしょ」
「それ選択肢にないからねっ!? はあ…そんなこと言ってるとアンタ本当にいつかぼっちになるわよ。周りを見てみなさい。協調性がないのはアンタだって分かるから」
言われ周囲に視線を這わす。
談笑するもの、騒ぐもの、写真を撮るもの。
なるほど。
反応こそ千差万別だが一貫性は確かにある。
皆がみな楽しそうにしていた。
「言われてみれば確かに。協調性が無いのは私だったみたいね」
「でしょ? だから言ったじゃない。自分の発言に反省なさい」
「にしても信じらんない。みんな一回は来た事あるでしょ? なにを今さら騒ぐのよ」
「逆に一回しか来たことないから浮足立つのよ。年齢が変われば見方も変わるしね」
「じゃあ見方が変わらない私が子供ってこと?」
「そうは言わないけどそうなんじゃない?」
「それ言ってるでしょっ!?」
さっきの仕返しとばかりに言い返される。笑いながら未来が写真を撮る。
香蓮にイラつかされてたみたいだけど、そんなこともう忘れてしまったかのように未来が一番楽しそうだった。
当初の目的はどこへ。
「当初の目的ぃ? なによそれ」
「アンタ私を監視する為に同じ班になったんじゃなかったっけ?」
「っ!? そ、そそ…そうよ! べ、別に適当に言ったウソだから忘れてたわけじゃないわ!」
「え? ウソなの?」
「だから違うって! ほらさっさと行くわよ!! 他の子たちもう先行ってるんだから」
言いながらそそくさと先へ急ぐ未来。
私も後ろから付いて行く。
鏡湖池に沿って歩きながら金閣寺を拝見する。
「うーん…いつみても『金』って感じがしないわね」
「この罰当たり。大体いつみてもって言うほど何回も見たことないでしょ」
「ハハッ…よく分かったわね。これが二回目よ」
「バカじゃないの? あのねえこういうのは事前に調べたりして風情を楽しむものなのよ。分かる?」
「全然わからないわ。私と違って未来は詳しそうだけど」
「そ、そんなことないわよ。でも知ってる? 寺名は開基である室町幕府3代将軍足利義満の法号・鹿苑院殿にちなんで付けられたのよっ! なんか感動するでしょ!! それに鹿苑寺…ここではあえて金閣寺って言うわね。伝わりやすいと思うし! 金閣寺は京都の数ある観光場所でも一、二位を争う名所なんだけど平成6年にユネスコの世界遺産「古都京都の文化財」の構成資産に登録されてるんだから! ねっ? 凄くないっ!? あっ見てっ! 逆さ金閣!!」
「うるさいなあ…」
これで詳しくないとかなんなの?
ミクペディアなの?
「誰がミクペディアよっ!? それにうるさいって何っ! アンタの為に説明してあげたんだけど!?」
「そんな説明もとめとらんわこのバカたれ」
「だ…誰がバカよ! だれぶうっ!?」
「ぶう?」
オナラ?
そんなことを思いながら振り向くと、そこには日大ばりのタックルをくらう未来の姿があった。
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