アンタが一番ひどいわ
新幹線からバスに乗り換え私たちは観光地である京都市街へと向かった。
はっきり言ってバス移動は楽しくない。
しかしそれも考え方一つで変わってくる。
案外というか当たり前というか何とも普通な町並みに拍子抜けしてしまう。何ともいえない懐かしさに浸れるのはきっと観光場所についたころだろう。
そう思えば移動距離も面倒くさいと思えない。
むしろ楽しみの一つである。
「アンタよくあんな子と付き合えるわね」
無論、機嫌の悪い奴が隣にいなければの話しだが。
駅での邂逅以降、一貫して未来の機嫌は悪かった。いやこの表現には語弊があるか。
機嫌が悪いとかむくれるとかそんな可愛い表現は当てはまらない。
キレるとかブチ切れるとかそんな表現こそ相応しい。
「全部一緒じゃない」
「うるさいなあ…人の思考勝手によむの止めてくれる?」
「アナタが勝手につぶやいたんでしょ…?」
ドン引き、、、と未来さん。
隣に座ってるのにその遠慮のなさは感服に値する。
「そりゃどーも。でもアンタの友達の方がよっぽど凄いわよ」
「そう?」
「そうって…言っとくけど私アレ初めての会話よ? 初対面にありえる?」
信じられないと未来さん。
あまりのあり得なさに恐怖すら覚えてる様子である。
「そうね。ある意味恐怖だわ。ぶっ飛んでるもの」
「確かにぶっ飛んでるとこもあるけどさ、そう言わないであげてよ。あれでも良いところあるのよ」
私は多少ながらムッとした。
未来の言い分も分かる。
あんだけ邪険にされることなんて普通ないし初対面でボロクソ言われれば腹も立つ。
でもそこまで言うのはさすがに可哀想だ。
香蓮という人間の外見だけで顔しか知らない、中身を知らない。
そんな人に香蓮を悪く言って欲しくはない。言う権利もない。言っていいのは付き合いのある人だけ。
良いところも悪いところも知ってる楓や涼、つまるところ私たちだけだ。
「ふ~ん…随分と肩を持つのね」
「肩を持つっていうか一応友達だしね。良いところもあるって知って欲しいのよ」
「そ。でもそんなこと言ったって私は謝らないからね」
「それで良いわよ。だって香蓮が悪いんだし。むしろ後で謝らせるわ」
「…ホント昔っからそういうところがズルいのよね」
「何か言った?」
「べ、別に何ともっ! それよりアイツの良いところってどこよ。私には全然わかんないんだけど!」
「えー…何よ急に。いいところねえ、結構いっぱいあるけど…」
そう言いつつ考える。
良い機会だし香蓮の良いところを布教して噂にでもなってくれれば悪評から解放されるのだ。本人は気にしてないつもりでも言われないにこしたことないしね。
ここは最高のエピソードを聴かせてやらないと。
「……ゴメン。良い奴エピソード無いかも」
「は…? なに言ってんの?」
「自分でもびっくりなんだけどウザかったエピソード以外思いつかないの」
「おい」
「ちょっと前に盗聴もされてるから信用もないし。なんで友達なんだろ…」
「前言撤回。アンタが一番ひどいわ」
うーんと頭を捻る私に容赦ない言葉が浴びせられる。
反論する気も起きなかったけど何だか少しだけ悲しくなった。
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