凛以外に友達いないから
映画が終わると二人は喫茶店で遅めの昼食をとっていた。
駅前にライバル店がひしめく中、その店は一際オシャレな外観だった。
レンガを基調としたイタリアチックな外装。店内では優雅な曲が流れシーリングファンが回っている。一段上の優雅な暮らしといった感じだ。
「…恨めしい」
もはや嫉妬を隠す気もないのか香蓮さんが恨めしそうにハンバーガーにかぶりつく。
私たちは店の中には入ることはせず向かいのバーガーショップで昼食をとっていた。
「文句言ってもしょうがないですよ。バレたら怒られるじゃすまないんですから」
「分かってるわよそんなこと! 私が言ってるのは向こうは楽しそうだな、美味しそうだなってこと!」
「ハンバーガーは美味くないか?」
「美味いわけないでしょっ!? 誰が好きこのんでハンバーガーなんか食べますか!!? …あ、ポテト美味しいわね」
「ちょっろ…」
文句を言いつつポテトを頬張る。その姿は少しだけ微笑ましいものがあった。
にしても初めてなんですか? 有名なチェーン店なんですけど。
「はじめてよ。これでもお嬢様ですから」
「お嬢様はマックに行かないのか?」
「マックって言っちゃってますね」
せっかく伏せたのに。
「そういった配慮だったのか…すまん」
「もういいですよ」
期待してないので。
「凄く馬鹿にされてるようだが…まあいい。話しを戻すが一度も来たことが無いというのは意外だな。お嬢様なら取り巻き達と一緒に来たことがありそうなものだが」
「んー…確かにそう言われると違うかもしれないわね。訂正するわ。少なくとも私は来たことない。凛以外に友達いないから」
「…悲しい理由ですね」
「なんかすまん…」
「謝らないで。逆に辛い」
ま、まあ、お姉ちゃんってマックとか行かないですからね。
ラーメンとか牛丼みたいなB級グルメは大好きなんですけど。
「B級グルメ? そんなジャンルがあるのね。初めて知ったわ」
「本当にお嬢様なんですね。世間知らずが酷過ぎてひいてます」
「言い過ぎじゃないかしら? それに世間知らずだなんてあなたにだけは言われたくないわ」
「どういう意味ですか?」
「自分の気持ちすら分かってないアナタに言われたくないっていってるの。エンディングの時のフリーズってショック受けてたんでしょ? 楽しそうにしてる凛の姿を目の当たりにして」
顔すらこっちに向けないでサラッとそんなことを言ってくる。
すぐに聞き返したもののなんのことを言っているのか分かっていた。
「…意味わかんないです」
でも、私は知らないフリをする。
だって認めたくないじゃないか。
姉がデートしてるのを見て『面白くない』だなんてこんな感情。
だってそんなの間違ってる。
出不精で常にダラけてる姉に彼氏が出来るかもしれないんだよ?
私が常々感じていた姉への不満が解消されようとしてるのに。
…どう考えても祝福してあげるべきなんだ。
「…そう。アナタがそれでいいなら別にいいけど」
「ちなみに香蓮さんはどうするんですか?」
「なにがよ?」
「お姉ちゃんに彼氏が出来たら」
「そうね………泣くわ」
「…いちいち間を開けるのやめて貰っていいですか?」
すっごく思慮深い答えが聴けると思ったら案外単純な答えなんですね。がっかりです。
「…どんな答えを求めてたのよ。わたしはただ自分自身に嘘を吐きたくないだけ。凛が女性だからとか関係ないわ。凛が他人のものになるだなんて考えたくないの。だから泣きもするし全力で自分のものにする努力をするわ」
「…何があっても?」
「ええ、もちろん。こんなに他人に興味を持ったのなんて初めてなの。自分でも驚いてるわ」
「ふふっ…そう言ってもらえると妹の私も嬉しいです」
香蓮さんが頬を染める。
単純にして明解。
腹が立つのに…全然馬なんて合わないのに、その答えは不思議と腑に落ちた。
自分が欲しいものを手に入れる。
自分が欲しいからこそ誰かに盗られたら腹が立つし泣きもする。
なんて分かりやすい。
これ以上の答えなんてないぐらいに完璧な答えだ。
でも…じゃあ私は?
「おい、あの二人が出たぞ。早く行こう」
涼先輩が先を急かす。
時刻は十四時。
デートも終盤へと差し掛かっていた。
読んで頂きありがとうございました。
次週ラストです。
よろしくお願いします。




