…エッチな映画かしら?
尾行を開始して数分。
二人は仲睦ましく歩いている。
お姉ちゃんもお姉ちゃんで緊張した様子はない。
それどころか次節頷き、笑い、話し掛ける様を見てそれなりに楽しんでいるように見える。
今日初めてあったとは思えないほど会話が弾んでいるよう。
なんと羨ましい。
私たち三人組とは大違いだ。
「…楽しそうね」
死んだ顔で香蓮さん。
どうやら二人でデートしてるのが羨ましくて仕方がないらしい。
でも昔お姉ちゃんと二人で出かけた事なかったですか? 二人で撮ってるプリクラ見た覚えがあるんですが…
「今私がしたいのはデートであって遊びに行くことじゃないわ。それに二人で遊びに行ったのだってそんなに多くないもの。凛出不精だし」
「ハハハ…まあそうですね。お姉ちゃん基本的に面倒臭がりですし」
「それもそうだけど凛が楽しそうなのも気に入らないわ。凛も積極的に話し掛けてるみたいだし」
「そりゃあデートだからな。男に任せっきりという訳にもいくまい。アイツなりに会話の準備でもしてたんじゃないか? よくわからんが」
「…よくわからないのに憶測でものを言わないでくれるかしら? …にしてもイライラするわね。凛が笑うのを見るたび蹴り飛ばしたくなるわ」
「…少し意外です。お姉ちゃんのこと大好きなのにそういう感情も湧くんですね」
お姉ちゃん大好き! なにがあってもお姉ちゃん贔屓だとばかり思ってましたけど…やるときはやるんですね。
「は? 何言ってるのよ」
「違うんですか?」
「わたしが蹴り飛ばすのはあの男よ。勘違いしないで」
「はいすいません…」
私は何に謝ってるんだろう…
そんな解けない謎に思考を奪われつつ尾行を続けていると二人はビルの中へと入って行く。
看板には『モーレツシネマ』と書いてあった。
なんだろ…ちょっと卑猥な名前だ。
「…エッチな映画かしら?」
「なわけないだろ。そもそも高校生じゃ入れん。バカか貴様は」
「何よその言い方! あの男が何考えてるかなんてわっかんないでしょっ! きっと闇に乗じて襲うきよ! そうよ! そうに決まってるわ!!」
「いちいち噛みつくなよ。この駄犬が」
「なんですってぇ!!」
「うるさいなあ…」
お姉ちゃん達が直ぐそこにいるんですが…
この人たちは本当に西高の生徒なのだろうか。もしや裏口なんじゃ…
なんて世界の秘密に触れつつ私たちも映画館へと足を踏み入れる。
受付のお姉さんにさっきの二人組と同じ物をと告げる。
チケットを眺めていると香蓮さんが後ろから覗いて来る。
「なんて映画?」
「モナコの海です。恋愛映画ですね」
「っハ! 分かりやすい映画をチョイスして。将来はペテン師かしら」
「口が悪いですよ」
否定はしませんが。
「では早速行こう。明るいうちに入ってアイツらの後ろをキープするんだ」
受付にチケットを見して中へと入る。
後ろから身をかがめながら入るとお姉ちゃん達が真ん中らへんにいるのが分かる。
私たちはその後方へと着席する。
「さっきから何話してるか分からないわね」
「大人しくしてて下さい。というか今さらですか?」
尾行を開始してから何分たったと思ってるんだ。本当に今さらな話しだ。
「気になるが別に聞こえなくても構わんだろ。やましい事をしてたら後ろから丸わかりな訳だし」
「シャラップ。ならアナタは聞かないのね?」
そういうと香蓮さんはポケットから何かを取り出してお姉ちゃん達がいる方へと放り投げる。
上手くいったのか、グッとガッツポーズを握ると今度はスマホを取り出す。
「ちょっと何投げたんですか!? 気付かれたらどうするんですか!?」
「大丈夫よ。超小型で十グラムもないから普通は気付かないわ」
「そういう問題じゃないんですけど…もういいです。で、何をしたんですか?」
「凛に盗聴器を付けたの」
「へー盗聴器を……は?」
「…お前最低だな」
二人して呆れる。
私たちがやってる尾行も最低かもしれないけどこの人はちょっとレベルが違う。
お巡りさんこの人です。
「な、なによ二人して引いて! 別に私だってこんなこと今回が初めてだし会話が気になるんだから仕方ないでしょ!?」
「逆切れですか? 言い訳は署でたっぷり聞きますね」
「み、見て? このスマホで聞けるのよ凄いでしょ!?」
「興味ないです」
「待って! 警察だけは勘弁して!」
「あ、檻に入る前にスマホは置いてって下さいね? 会話が気になるので」
「バカなのっ!!?」
「…うるさいぞお前ら」
しまった。
香蓮さんがバカなことやってるから突っ込んでしまった。
とりあえずスマホは没収です。
「もう! あと少しで会話が聴けたのに!」
「もし聴いてのがお姉ちゃんにバレたらヤバいですよ。尾行だけでも不味いのに」
「だな。貴様の事だし盗聴したのポロっと言いそうだしな」
「…そうね。否定できないわ」
…否定しろよ。
そんなことを心の中で突っ込んでいるとようやく映画が始まった。
海を通じて出会った少年との恋愛物語。
どこにでもある恋愛ものでこれといって語るべくもないような映画だったけど、在り来たりを在り来たりと感じさせない功名な会話劇と演出描写が私の胸に響いた。
二時間はあっという間だった。
エンディングの最中に二人を盗み見る。
初々しく並んで座る二人は何処から見ても恋人同士。
どこにでもいる普通のカップルだった。
(…あれ?)
胸がざわつく。
理由は不明。
原因はもちろん分からない。
気になるから来ただけなのに。
「どうしたの? 出るわよ」
香蓮さんに先を諭される。
エンディングが終わったことに気付いてなかった。
私は自分でも分からない、どうしようもない確かな焦りを感じていたのだった。
読んで下さりありがとうございます。
もう2、3話続くので付き合っていただければ
幸いです。
また更新します。




