ハートやめろ
「ででででででででででででででででででデーーーーーーー―トッッッッッ!!!!????」
『うるッさッッ…気持ちは分かりますけど』
「…ウソでしょ」
電話越しの嫌味も頭に全然入って来ない。
必死で覚えた英単語も一気に頭から抜け落ちていく。
その代わりに新しい単語が羅列される。
でーと。デート。DATE。
なんだこれは現実か?
信じられない。
試しに頬をつねってみる。
クッソ痛い。
おもいっきり現実だった。
「なんでそんなことに!」
『ちょ…わ、わたしにキレないでよっ! わたくしだって不本意なんだから』
「そんなことはどうでもいいです! どうしてそうなったかの経緯を聞いてるんです!!」
「だから今から尾行するから忙しいって…はあ…まあいいわ。ちょっと待ってなさい。結構前の記憶だから思い出さないと…」
「そんな前から約束を?」
「そうね…あれは三日前のことよ」
「わりと最近っ!?」
ツッコミも軽く無視。
拙い記憶を探るように香蓮さんはデートになった経緯を話し出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「急に呼び出してなに?」
午後十四時。
セミが無作法に鳴き叫ぶなか乱雑に扉を開けると見知った顔の男が眼鏡を上げる。
整った顔立ちと如何にも口が悪そうな相貌に眼鏡が良く映えている。
部長の涼だ。
「遅いぞ、如月凛」
「フルネームで呼ばないで。ただでさえクソ暑いなか学校に来てるんだからイラつかせないでよ」
「そうよそうよ!」
「いやキミを呼んだ覚えはないが…」
私の後ろで抗議の声を上げたのは金髪の美少女、宝城香蓮だった。
正門でばったり会ったから一緒に来たけどなに、呼ばれてないの? じゃあどうして学校に?
「凛に会える気がして❤」
「こわッ!?」
顔を上気させてるけど全然可愛くないからね。あとハートやめろ。
「仲が良いのは構わんが仕事の邪魔はするなよ…では早速本題に入ろう」
いつもの場所に座ると涼は依頼書を取り出した。
にしても切り返しが早いな。なにか嫌なことでもあった?
「人の事を気にしてる場合じゃないぞ」
「どういうことよ」
「これを見ろ」
言いながら依頼書を渡される。
名前欄に田辺薫と書かれている。どうやら三年生らしい。
依頼内容を見てみれば文頭には『部長様へ』と書かれていた。
「ちょっとこれ私が見ていいやつじゃないんじゃない?」
一応私も総務部の一員なだけに依頼書を見る権利は当然ある。しかし、この依頼書はいつものやつとは少し違う。
総務部宛というより明らかに個人に対するお願いだった。
どう見てもむやみやたらに見せびらかして良いやつではないだろう。
「そんな事は分かってる。いいから見てみろ」
「全っ然わかってないじゃない。こういう事はダメだって。信用無くすわよ?」
「ここで黙ってる方が信用無くすと思うがね…いいから見ろ。キミも人事じゃない」
「むうぅ…そこまで言われると迷うわね」
「なら私が代わりに見てあげよっか?」
「それは一番ない。分かった、私が見るわ」
「なによそれっ!?」
真正面で騒ぎ散らす香蓮は無視して依頼内容に目を這わせる。
「…な…な、なな」
一行二行と読むにつれ顔が熱くなる。
当然風邪なんかひいてない。この熱はもっと別の要因で発している。
それはというと…
「これ…これラブレターじゃない!? しかも私宛の!!」
いつもありがとうございます。
お陰様でブクマ百件に達しました。ここまで長かったので100は楽勝だよとか言ってた友人を殴りたいです笑
読んで下さった皆様に感謝しつつ、これからもちょこちょこ更新しますのでよろしくお願いします。




