何をセンチになってたんだろ
部屋の中は静寂と言えば静寂。
でも何処か張り詰めたような空気がうっすらとへばり付く。
カリカリという音だけが耳に入る。
自室にこもること数時間。
外は真っ暗でもうすぐ時計の針は零時を指す所。
私―――こと如月楓は西高合格のため受験勉強に励んでいるところだった。
夏休みも半ばとなり勉強にも大分力が入っている。
見るのも嫌だった数式も今ではすっかり手馴れたもの。かなり余裕が出て来ていた。
「……はあ」
ふと顔を上げる。
部活も引退して勉強に打ち込んでると少しだけ寂しくなる。
何も考えずに走りまくってお姉ちゃんとゴタゴタしたあの数日前がウソのよう。
恥ずかしいやらバカバカしいやらで思い出したりはしないけど今だったら分かる気がする。人との間に隔たりが出来るのはそれだけ深く関わってる証拠なのだと。
だからなのか受験勉強はたまに虚しくなる時がある。
満足感や達成感なんか本番じゃないから当然ないし今やってるのは受験のためのいわば保険。本番はまだ先なだけに休み中の勉強は自分との戦いである。
陸上競技も自分との闘いのように語られる事が間々あるけど陸上は一人ではやらない。常に誰かと練習し、切磋琢磨し己とチームを叩き上げる。
個はチームでありチームは個でもあるのだ。
少なくとも孤独を感じることなど絶対なかった。
壁の向こうになんとなく視線を向ける。
大口を開けて寝ている姉を想像して吹き出しそうになる。
…なんだか力が抜けてしまう。
いいなあ…あの人は。まあ確かに寂しいし孤独だけどそれはみんな一緒だよね。私以外もみんなそうだ。何をセンチになってたんだろ。
それに私には再確認した永遠の味方がいるじゃないか。
ずっとずっと味方でいてくれる人たちが。
「…っよし!」
頬を叩く。
時刻は零時過ぎ。
あと二時間ぐらい今日は頑張ってみようかな。
私は再び、机に向き直った。




