女だし何より眠いし
肝試しを終えて私たちは別荘へと戻った。
「どうだった凛? 楽しかったでしょ!」
「…ええ」
死んだ顔で歯を磨いてると香蓮がにこやかに話し掛けてくる。内心怖かったのを隠し通すことは出来たけど…なんだろうこの心が犯されたような気分は。全然テンションが上がらない。
「テンション低いのも心が穢れているのもいつもの事でしょ?」
「ひどい言い方ですこと」
「…驚いた。本当にテンション低いじゃない。もっと突っ込んでくると思ったわ」
「私にだってこういう時があるのよ。女だし何より眠いし」
「そ。じゃあ何されても良いってわけ?」
香蓮がガキ大将のようにニヤリと笑う。どうやら面白い悪戯を思いついたよう。しかし、それでも私は気分的にも体力的にも抵抗しようとは思わなかった。
「抵抗しないって事で良いのね? えいっ!!」
「ちょっ…香蓮っ!?」
タックルでも見舞うかのように腕に抱きつかれる。危うく歯ブラシを落としそうになるが今はそれどころじゃない。
「ちょっと香蓮っ! やめなさいって!!」
「はああ~…凛って筋肉あるのに柔らかいわよね…すりすり」
「すりすりすんなバカ! ちょっ…ホントに……んっ…」
…これはヤバい。
何がヤバいってはあはあ言いながら胸やらお腹やらまさぐってくる香蓮もかなりイッちゃってるけど一番ヤバいのはここにはみんながいるってこと。こんなところ誰かに見られたら一貫の終わりである。
「…んっ…んん……んっ! い…良い加減にしなさいっ!!」
「いったいなあ! 何も殴ることないでしょっ!?
ドついた所で香蓮がようやく離れる。…にしても危なかった。あのままいってたら開けちゃいけない扉を開ける所だった。だって香蓮って意外にもテクニシャ…いやいやごほんごほん…。
「ふふん…ちょっと気持ち良かったんでしょ?」
「バカじゃないのっ!? はあ…アンタと喋ってると疲れるわ」
「でもテンションは上がったんじゃない?」
得意気な香蓮にふと思うところがあった。
まさか気をつかって元気づけようとしてくれたのかもと。
(そんなことないと思うけど、でも…)
例えそうじゃなくても遊びに来てテンション下げてたら香蓮も嫌な思いしてたかも。…反省しなくちゃいけないか。
「全然いいわ。それに私たち親友じゃない! 何でも言ってくれていいんだから!」
気付かれないようにそっぽを向く。
底抜けに明るい彼女の笑顔があまりにも眩しかったから。
「今日誘ってくれてありがとね、香蓮。楽しかったわ」
目を合わせなかったのは自覚を伴う照れ隠し。
夏休みはまだ始まったばかりだ。
今度は私から誘ってあげようかな。
そんな事を思いながら私たちの夜は更けていくのだった。




