ホントにストレスたまる
外へ出ると木に垂れ幕が吊るしてある。
『地獄ツアーへようこそ』
思わず口をあんぐりしてしまう。香蓮ってこんなにバカな子だっけ?
「い…いいじゃないたまには。わたくしはこういう事がやってみたかったの!」
「の! じゃないわ。なあにが地獄ツアーよ。森の中歩くだけでしょ」
森には当然外灯などない。薄暗いどころか真っ暗だけどこんなもので地獄ツアーだなんて名前負けもいいとこでしょ。
これで怖がるなんて子供だけよ。ねえそう思うでしょ、みんな?
「……え? ゴメンお姉ちゃん聞いてなかった…」
「ウソでしょ…?」
青ざめた楓を見て絶句する。アンタそんなに怖がりだっけ?
「咲…お願いだから離れないでよ」
「美樹ちゃんこそ…」
「あう~…如月先輩は怖くないんですかあ…? 私こういうの苦手なんですぅ…」
「…そうみたいね」
みんなバカにすると思ったらメチャクチャ怖がってるじゃない。逆になにが怖いのか聞きたいくらいなんですけど。
「ふっふーん♪ どう、凛? 全然子供騙しじゃないでしょ。素直に謝ってわたしくしを褒めなさい」
「くうぅぅ……」
あー…怖いものあったわ。
こいつのドヤ顔はホントにストレスたまる。
なにが素直に謝ってよ。私は全然楽しんでないんだから。
「あら言うわね凛。でもしっかり怖がってもらうんだから。じゃあ取り敢えずルールを説明するわね。ルールは簡単。ここを真っ直ぐ行くと洞窟があるんだけど、そこに置いてあるコインを一つ取って来ること。ウチの執事がさっき三つコインを置いてきたから今から三チームに分けましょう」
「ん、了解」
グーとパーで別れる。
にしてもルールってそれだけか。
肝試しっていうからもっとイベント的な事がおきるんじゃないかって思ってたけどそうでもないのね。とんだ肩透かしですよ香蓮さん。
「あ、言い忘れたけど洞窟って防空壕のことだから」
「マジっ!?」
「マジもマジよ。…ああーもう! 凛と同じペアになれなかったわ! 闇に乗じて抱きつこうと思ったのに!!」
すっごい怒ってるけど私はそれどころじゃない。
防空壕!? マジ!? つーかみんなそれ知ってたのね!
「本っ当~に怖かったので如月先輩と一緒で嬉しいです。よろしくお願いしますね」
「あ……うん…」
「……バカなんだから」
楓が人知れずジト目で見てくる。
褒めたくないけど流石である。他の人には分からない焦りが楓には伝わってるのだ。
これ呪われるんじゃないの? みたいな焦りが。
「覚えておきなさいよ…香蓮…」
これでもかというくらいの恨み節もきっと香蓮は聞いてない。
私は恐怖で吐きそうになるお腹を抑えながら洞窟へと向かうのだった。




