基本は良い人なんだよね
「ちょっと大丈夫?」
「…う……ッ…」
うちわで扇ぎながら休憩所で横たわる香蓮に話しかける。
ちゃんとした返答はないものの意識ははっきりしてるみたいだ。薄目を開けて天井を見つめている。どう鼻血は止まった?
「んー…わからないわ。止まったとは思うけど」
「じゃああと十分は休んでおきなさい。何でも油断してるとぶり返すもんよ」
「…うん。ねえ、凛」
「なに?」
「…ありがとう」
「ハハッ…何を言うかと思えば…」
綺麗に整った金髪を撫でる。デコに付いた髪の毛をのけてやる。
少ししおらしいなと思ったらなんだ、気をつかわせたとでも思ってるのだろうか。
その態度は懺悔なのか反省なのか…分からないけどいずれにせよ可愛い所があるじゃないか。
別に好きで倒れた訳じゃないんだから、こういう時くらい甘えても良いのよ? まあ鬱陶しいとは常々思ってるけど何だかんだで友達じゃない私たち。
「うん、本当にありがとう」
「だからいいって。そういうの」
「ありがとうママ」
「誰がママだ」
「ふぐっ!?」
腹におもいっきり鉄槌を下す。香蓮が一瞬、くの字になる。
こいつはホントに…。アンタいい加減にしときなさいよ? 誰がママだ誰が。同級生だっつーに。
私は買っておいたペットボトルの水を香蓮の横に置くと休憩所を去る。
こんだけ元気なら大丈夫だもんね。でも一応あとで変態執事に言っておこう。
「呼びましたかな?」
「ヒッッ!?」
急に目の前に現れた変態執事。急に何なの忍者なの? ビックリさせないでよもう…あと心の中よむの止めて。
「ほっほっほ…いやね、凛様がわたくしめをお呼びだと感じたもので大便中に馳せ参じました」
「普通にキモイ。あと呼んでるのは私じゃなくってアナタのご主人様よ。鼻血吹いて倒れたんだから」
「おやおやおや…それはいけませんな。すぐに駆け付けます」
執事は休憩所を確認すると小走りで走っていく。
(基本は良い人なんだよね)
老体に鞭打って走る姿にふとそんな事を思う。
宝城家の人たちは変人が多いけどみんな良い人達なんだよね。香蓮も含めてさ。
「………」
だからかな…ちょっとだけ罪悪感。普通にキモイは言い過ぎたかもしれない。
「…そういえば凛様」
言いそびれた事でもあるのか執事が振り返る。
その姿に私は不覚にも胸を打たれる。
いつもにこやかな顔をしていたけれど、その時の顔は今日見たどの表情よりも優しくて、柔らかくて、人を引き付ける笑顔だったからだ。
「その谷間。ぜひ顔をうずめたいですな」
「普通にキモイ。死ね」
前言撤回。
宝城家は変態ではなくただのバカ集団らしい。
私は執事に背を向けるとみんなが遊ぶ波辺の方へと歩を進める。
…もちろん少しだけ胸を隠して。
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