この魔乳が
「あっ! やっと先輩達も来たのね」
「遅れてゴメンね。呼んでくれてありがと香蓮さん」
「全然いいわよ。それよりも凛―――」
香蓮は先輩二人と軽い挨拶を交わすと再びこっちに顔を向けた。何故かちょっぴり半笑いで。
「なんで脱がないのよ。早く脱ぎなさい。待たせ過ぎよ、私を」
偉そうにふんぞり返る。コイツはいつになく偉そうだけどどことなくソワソワしてるあたりやはり水着が気になるのだろう。それが分かってるから脱ぎにくいんだけど。
「お姉ちゃんそんなに嫌なの?」
顔を覗き込んで言ってきたのは楓だ。心配してくれてるのは素直に嬉しいけどそこまで深刻な話しじゃないよ。ちょっと恥ずかしいってだけ。あんた達が騒がしくしそうだから。
「なあーんだそんなこと。お姉ちゃん大げさすぎ。私はもちろん騒がないし、仮に金髪さんが騒いでも私が息の根を止めるから安心して」
「…そ。ありがと、楓」
「えへへ…」
「会話おかしくない?」
不満気な顔をする香蓮をほっといて、私はようやくシャツとパンツに手を掛ける。
正直に言えば渋々って感じだけど、海まで来て泳がないなんて選択肢はありえないし、ここで脱がなかったら今日一日脱ぐ機会を逸してしまうかもしれない。こういうのは勢いだ。
私は意を決して一気に脱いだ。どちらかと言えば剥いだと言った方が適切かもしれない。
それぐらい自棄だった。
「…ど、どう? おかしくないよ…ね?」
恐る恐ると言った感じで聞く。
でも、気恥ずかしくてみんなの顔がまともに見れない。なので自分の水着姿を見返す。
私が今回選んだ水着は黒を基調としたバインダービキニだった。前の水着が合わなかったから一人で買いに行って店員さんに勧められるまま買ったんだけど、安いし着やすいしで凄く気に入っている。だからこそ恥ずかしい部分もあるのだが。
カットアウトされたブラデザインがちょっぴりエッチだけどこのワンポイントがイケてるし、肉厚のボンディング生地が胸をしっかりと支えてくれて動きやすい。
私的には良い買い物が出来たと大満足だった。
「…ねえ。おーい」
「…グハッッ!?」
「な、なにッ!?」
脈絡なく香蓮が倒れる。
慌てて近付くと楓に遮られた。
「お姉ちゃんはそこにいて! 倒れた原因物質なんだから!」
キっ! と睨むと楓が香蓮を介抱する。
私への対応は病原菌のそれである。
「げ、原因物質ってなによ! 私なにもしてないじゃないッ!」
「そんなハレンチ極まりない格好でよくいうわ! この変態め」
ドン引きですよと楓。目が完全に変態を見てるような感じだけど、私は実の姉ですよ?
「実の姉だから言ってんの。この魔乳が」
下から上へと胸を突いてくる。
顔を赤らめながら飛びのくと楓が呆れたように言った。
「ああもうホンット恥ずかしいな…。なにが『恥ずかしいから騒がないで』よ。妹の私の方がよっぽど恥ずかしいんだけど。大体そんな露出狂みたいなビキニ着といてどの口が騒ぐなとかいうわけ? 甚だ疑問なんだけど…」
「くうぅぅ…何もそこまで」
悔しがる私を余所に救命所に香蓮を連れて行く一同。
「ぐへへ…えへッ……へへ」
みな一様に呆れる中、当事者たる香蓮だけは何故か一番幸せそうだった。




