疫病コンビ
ジリジリと照り付ける太陽に熱気を打ち返すような激しい波。
呼吸をすれば塩の味が口いっぱいに広がる。
視覚はもちろん味覚でもやっと目的地に着いたんだと実感する。
「イッッエエぇぇーーーーイ!!」
「………」
…そしてそれは聴覚でも。
香蓮家の車で揺られること一時間。
私たちはようやく海に到着したのだった。
「アンタ達少しはこっち手伝いなさいよ。あと準備運動もちゃんとしな」
シートやらパラソルやらを整えながら注意する。
無論、わざわざ手伝いにくる奴や準備運動する奴など皆無だが言うだけいっとかないと。安全に気を配って損することはないしね。
「さすがは如月様。大事なご友人へのご配乳…いえ、ご配慮、感乳いたします」
「全然ご配慮出来てないんだけど…」
香蓮の執事であるじいさんは『おっとこれは失礼』とだけ言い残すと飲み物を買いに行った。都合が悪くなると逃げようとするのはご主人様の影響か。にしても感乳ってなんだ。感服の間違いだろまったく。
「如月」
「如月さん」
「ん?」
呼ばれ振り返る。その先に多くの観光客がいるなかで私は誰が名前を呼んだのかすぐに分かった。
聞き覚えのある声だったのだ。
「咲と美樹先輩じゃないッ!? どうしてここに?」
スラッとした長身にスカイブルーのビキニが良く似合う咲と二つ上の先輩ながらワンピースが幼い印象を与える空手部部長の美樹がこちらに手を振っていた。
「私たちも呼ばれたのよ。もし良かったらって。宝城さんに」
「私全然聞いてないんだけど。でもなんで別行動? 咲たちも一緒に来れば良かったじゃない」
「ちょっと用事があったんだよ。だから行きは別行動…っていうか如月」
「なによ?」
「なんでアタシだけ呼び捨てなのよ。先輩をつけないさいよ」
なぜかご立腹の咲。それを見て私は呆れる。
「はあ? バカ言わないで。咲って呼んでって言ったのはアンタよ。勘違いしないで」
こいつは忘れてるのか。あの打ち上げでのことを。
酔った勢いっていうのはあるかもしれないけどアンタが呼び捨てにしてッて言ったんだからね。
「…ウソ。あたしそんなこと言ってたの…」
「大きな声で言ってたわ。好きな人には名前で呼ばれたいって」
「キャッー―――!!!」
「いや美樹ちゃん。うるさいから。絶対ウソだから」
真っ赤に顔を上気させる美樹をなだめる咲。この眺めも久々に感じるぐらいには日にちが経ったんだな。なんて黄昏てる場合じゃないんだけど。
「そうよ如月さん。早く脱いで泳ぎに行きましょ! もう今日が楽しみでしょうがなかったんだからッ!」
「そうだよ如月。何だったら向こう岸まで勝負しよう。負けたら昼飯おごりな」
「………」
…これだから空気の読めないポンコツコンビは。
実をいえば私は現在服を着用していた。
短めのシャツにホットパンツを履いてその下に水着をつけている。
いやね? 分かってるんだよ実際。どうーせ脱がなきゃいけないのは。
たださ…ちょっと恥ずかしいんだよね。こんな所で注目なんか浴びたくないし、なんだったら脱いだら脱いだで騒ぎそうな奴が大勢いるからさ。
「凛ーーッ!! 何してるのよ一緒に遊びましょ!!」
「おねえちゃーん!」
…ほーら来たぞ。
疫病コンビが。




