…クール?
「ホンット異常気象ね…エアコンの使い過ぎも考えものだわ」
普段考えもしないようなオゾン層の破壊に想いを馳せつつ、私は手の平で影を造る。
玄関から出るとお日様に歓迎される。今日も今日とて陽射しが強い。
日傘でも差そうかと思いやめる。駅までの辛抱だし、きっと向こうに付いたら邪魔になるからだ。
終業式から数日後、私たちは早速海に遊びに行くことになったのだ。
「今日はよろしくお願いします」
「うん、こちらこそよろしく」
快活そうなショートカットに真っ白なワンピースが良く映える。
ちなみにここでいう『私たち』とは、楓とその友人を指している。挨拶をしたその人だ。
しかしどっかで見た顔だ。というか見慣れた。
きっと中学の後輩かなんかだろう。
え~と…確か…柏木さん……だっけ?
「はい! 柏木優っていいます! 如月先輩、覚えていてくれたんですか?」
「え…ええもちろんじゃない! 記憶力には自信あるし」
「お姉ちゃん…?」
楓がジトッとした目付きで返してくる。
いやね、そりゃ正直に言えば忘れてたわよ。ギリギリ思い出したって感じよ。でもなに? それを正直に言って誰が得するっていうの? バッカじゃないの?
「バカじゃないです。そうやって取り繕ってるのがカッコ悪いなって思っただけです」
「あっそ。そりゃわるーござんしたね」
「いえいえそんな! カッコ悪いだなんて私は一度も思ったことありませんよ。むしろ如月先輩は私たち西中の憧れの的でしたし」
「え…そうなの? そんな話し今初めて知ったんだけど」
「みんな遠くから憧れてただけですから。お話ししたいなあ~カッコいいなあ~…って。ほら先輩って結構クールキャラだったじゃないですか? だから余計にみんな憧れてたんですよ」
「…クール?」
楓が疑問符を浮かべて繰り替えす。
アンタの言いたい事も分かるけど何も言わないで良いから。
夢は現実と違うからこそ、その価値があるんだから。黙ってるのが吉よ。
「分かってる。家では寝てるだけって知ったら優が死んじゃうもん。ショックで」
「その言い草に私がショックなんだけど…。とりあえず駅に着いたから香蓮を探すわよ。黒い車って言ってたんだけど…」
駅のホームで香蓮と車を探す。
実は電車での移動はしない。香蓮が車を出してくれると言ったからだ。
お金は浮くし移動は楽だしでじゃあ是非それでって感じだったんだけど黒い車ってどれよ。いっぱいあって分かるわけないじゃない。
「ねえ…もしかしてアレじゃない?」
若干引きながら楓が指をさす。
そこには確かに黒い車、無駄に縦に長くて光沢のある色合い、一目でわかるブルマンボディの高級車。
メルセデスベンツ・ブルマンであった。
「ヤッホー、凛! 久しぶりね!」
ドアから颯爽と飛び出てきたのはやはり香蓮であった。
可愛らしいミニスカートを翻しながら陽射しに負けない金髪がサラリと靡く。…うーん、認めたくないけど、やはり見た目は完璧である。
「えと…妹さんとそのお友達よね?」
「は、はい! 柏木優っていいます、よろしくお願いします!」
あまりの美少女っぷりに緊張しているのか声が上ずる。まあ気持ちは分からんでも無いけど遠慮するだけ損よ? だって…
「あら、妹さんと違って礼儀正しいわね。いいわ、車に乗って頂戴! 優は真ん中、妹さんはトランクよ!」
「おい」
どうせしょうもない喧嘩が始まるんだから。
私は朝っぱらからいがみ合う二人をほっといて車に向かう。
荷物を入れようとしたところで運転手だろう初老のおじいさんがトランクを開けてくれた。
「ど、どうも」
「いえいえ、これもわたくしめのお仕事ですから。ん…もしかして貴女様が如月凛様ですかな?」
「ええ。そうですけど…」
「これはこれは左様で」
おじいさんは深々と頭を下げる。
思わずびっくりしていると、おじいさんが真っ直ぐにこちらを見つめた。
「いつも香蓮お嬢様からお話を伺っております。初見ですが、とても素敵なお人だと聞いております故、すぐに当人だと気付きました」
「そ…そう?」
「はい。付け加えるならば想像以上でした」
な…なんだかむず痒いな。
こんなに面と向かって褒められることなんて間々あることじゃないからかもしれないけど、にしたって照れ臭い。
想像以上に綺麗だなんて。
「いえ、想像以上の〝乳〟でした」
「殺すぞ」
なんだこのエロじじい…
少しでも喜んだ数秒前の自分を殴りたい。
ビキニを持ってきたのは失敗だったなと思いつつも…
こうして私たちの海水浴は幕を開けるのだった。




