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私の妹(姉)が可愛すぎる!  作者: カオルコ
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得意の嫌味もキレがない

弱虫だったと思う。

記憶にあるのは泣いていた自分だ。


上手くしゃべれなかった私は周りに馴染めず友達がいなかった。


子供でも分かる圧倒的な孤独。


家から一歩でも外に出ればそこは見知らぬ土地。味方してくれる人は誰も居ない。

幼い私にもそれぐらいすぐに分かった。


だから泣いていたのだろう。相手の気を惹くために。


泣いて泣いて泣いて。


泣いてる自分は嫌だけど孤独よりはずっとまし。


だって希望が持てるから。

誰かが相手してくれるかもって。


『どうして泣いてるの? 一緒に遊ぼ! そしたらきっと楽しいよ』


そう手を差し出してくれたのは美樹ちゃんだった。


泣いていた自分を見つけてくれたのは。

最初はおずおずと手を取った私も仲良くなるのにそう時間は掛からなかった。


偶然にも家が近かったし性格の違いが上手くかみ合った。


一年を待たずして私たちは『親友』といって差し支えない仲になった。


『泣かなくなったね』

『うん。もう泣く理由がないからね』

『良かった。私も咲は笑ってる方が可愛いと思うわよ』


泣いていたのは寂しかったから。

ならば親友が出来た今、その行為に意味はない。


それに…


『良かった』


その言葉が私の心に決意させた。


心配させていたんだなと。元気づけようとしてくれてたんだなと。


なればこそ、もう泣くことは許されない。


それがどんな理由であろうと親友を悲しませるわけにはいかない。


だって―――


親友には笑っていて欲しいから。



            ―――――――――――――――――――――――――



(そう…笑っていて…欲しい…のに)


二勝二敗でまわって来た大将戦。


当初勝てると見込んでいた相手が思いのほか強敵だった。


展開は一方的。完全に相手のペースだった。


今日まで練習を積んで来たし驕りではない自信もあった。


でも―――


(クソっクソッッ! クソックソッックソッッ!!)


身体が思うように動かない。やけに拳が重い。反応が全然追いつかない。


相手の方が強い? いや、仮にそうだとしてもそれだけが原因じゃない。そんなのは自分が良く分かってる。


〝絶対に勝つ。美樹に笑っていて欲しいから〟


その思いが私の拳を鈍らせる。


もしカウンターを合わせられたらと不安になる。


結局…私は全然成長していない。


『止め!』


審判が試合を止めた。


余りに消極的だったから指導を受けるものだと思ったら違った。

審判が私に帯を直せと指示を出す。


「何やってんのよアンタ」


帯を直してると後ろから声を掛けられる。

如月凛。この試合に勝つ為に呼んだ助っ人だ。


「何であんな奴相手に苦戦してんのよ! バカじゃないの!?」


後輩だというのに本当に口が悪い。

でも仕方がない。向こうは結果を出している。


「咲…ちょっといい?」


そういったのは美樹だった。

私は無言で返す。


「プレッシャー感じてるんでしょ? 負けたらどうしようって。…アナタって昔からそうよね。人の為に、私の為に動こうとしていつも失敗して」


「………」


「昔は良く泣いてたけどいつの間にか泣かなくなって。でも実際は強くなったわけじゃなくって…そうね強くなりたいって思ってたのかしら。ねえ…それってさ…私の為よね?」


「!」


「強くなって私を守ろうとしてくれたのよね。悲しませないように。心配しないようにって」


「違う! 私は……」


思わず否定してしまう。悟られていいものではないからだ。

それでも気にせず美樹は続ける。


「いいの。その気持ちは嬉しいわ。でもね、私が一番に望んでるのは咲の幸せなの」


「………」


「だから…咲」


「いっッ!」


バンッ! と背中を強く叩かれる。


驚いて振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべる美樹がいた。


「ここから先は咲自身の為に戦って。私の為とかプレッシャーとか関係ない。アナタの自由にしてほしい。そうすれば…きっとアナタの望む結果が得られるわ」


「美樹……」


その言葉を聞いてから私は開始線へと戻った。


『始め!』


相手が拳を突き出す。


私は難なくかわす。


―――そっか

簡単なことだったんだ。


美樹の為とかプレッシャーとか関係ない。

確かにその通りだ。


悩んだところで今までやって来たこと以外の事が出来る訳がないんだ。


いつも通りで、いつもの自分。


悲しませたくなかったのに私がその原因を作っていては本末転倒。

本当にバカバカしい。ここまで来たらやるしかないのにね。


それに―――


『私が一番に望んでるのは咲の幸せなの』


その期待に答えずして何が親友か?


ならばこの試合、全力で取りに行く!


軽くなった拳を、私は全力で突き出した。



            ―――――――――――――――――――――――――


「あーうー…凛ー…おつかれーー…」


「おねえーちゃーん…」


「なかなか良い試合だったぞ」


「あんたマジ何様?」


うえーんと泣き崩れる香蓮と楓に上から目線の部長様。


現在待機場。

会場では未だ歓声が上がっていた。


「如月さん、今日までありがとう。すっごく助かった」


「うん…でも惜しかったわね」


「そうね…」


苦笑を浮かべる美樹先輩。

結果として私たちは一回戦負けとなった。


進藤咲の目まぐるしい追い上げがあったが最初の劣勢を跳ねのける事が出来ず判定で負けてしまったのだ。


微かな嗚咽が聴こえる。

待機場の端っこで泣いていたのは進藤咲だった。


「悔しかったんだね…アイツ」


「うん…咲が泣いてる所なんて久しぶりに見たわ。想像以上に悔しかったのよ…きっと。凄く頑張っていたし…」


「そうね……でも、それは先輩もでしょ?」


「………」


そう口から出てしまったのは相手を想ってのことではない。どちらかといえば反射に近い。的外れではないのが唯一の救いだろう。


またしても先輩は苦笑する。


「…意地悪だな如月さんは。そりゃあ私だって悔しいよ。一回戦突破を目標に今日までやって来たわけだし。でも……」


ふっと先輩は進藤咲の方へと歩み寄ると後ろから抱きしめる。


耳元で笑い掛けながら呟く。


「この子が泣いてるのは自由になった証拠。負けたのは悔しいけど幸せでもあるわ。だって負けた以上に得られたものが大きいんですもの」


二人はしばらくそのままでいた。


泣きながら。泣きながら。


支え合って二人して泣いていた


「そりゃそうよね…」


負けた事実は変わらない。

悔しくないって言ったらウソになる。

依頼の結果として見れば失敗だったと言わざる得ないのかもしれない。


でも―――

やっぱり結果だけでは分からない。


失敗だったかは当の本人たちが決めること。


でも…いや、だからこそ分かるものがあるのだろう。


聞くだけ野暮というやつだ。


「ホント損な性格だわ…お互いにね」


得意の嫌味もキレがない。


それもしょうがないだろう。


だって私も当事者で…二人が支え合ってる姿を見て、少しだけだけど…心惹かれるものがあったのだから。




これにて終わりです。

すいません長くて笑


次回からまた短編に戻ります。

ありがとうございました。

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