顔認証って何なの?
「どうしたのよ、凛。スマホなんか見て珍しいじゃない」
机の上で黙々とスマホをいじっていると香蓮に話し掛けられる。
いつもはスマホなんか見ないで寝てるか外を見てるかの二者択一なので不思議に思ったのだろう。私だって別にスマホにようはないしね。つーか授業間の休みにまでこっち来るとか何なの? 暇なの? 喋る相手もいないのね。
「う、うるさいわね! だから遊びに来たんじゃない!」
…否定しないんだ。
「もうしつこい! 私の事はいいじゃない! で? 何やってるわけ?」
「何って程のことじゃないわよ。ただ…」
「ただ?」
ちょっとだけ言いよどむ。
だって本当にしょうもないから。
「別に気にしないわよ、言って」
「…昨日、スマホの調子が悪いから機種変更したのよ。iPh〇ne Xに」
「そう。で?」
「実はわたし機械に弱くてさ…」
「うん」
「使い方全然わかんなくて…」
「しょうもな!」
「おい」
「…~びっくりしたー…本当にしょうもないわね」
信じられないといった感じで口元を押さえる香蓮。
普通にムカつく。
「ゴメンゴメン冗談よ。でも、意外ね。凛って何でも器用にこなすタイプだと思ってたわ」
「あーそうね。自分で言うのも何だけど器用な方だとは思うわ。でも、コレは別よ」
持っていたスマホを掲げて見せる。
香蓮が『これってスマホのこと』といった感じで指をさしたので左右に振って否定する。
「スマホっていうか最近の機械って複雑で繊細でしょ? ちょっとしたことで壊れたり故障の原因になったりするから触りたくないのよね。興味はあったんだけど、そういった理由から遠ざけてたらその興味まで失っちゃったのよ」
今では普通に使ってる電話やらインターネット。
どういった構造かは知らないが凄く便利で不思議なものである。
ただ興味はあっても如何せん中身が繊細で複雑怪奇とあっては触る意欲も霧散する。何事も器用にこなすタイプであっても『雑』という元来の性格までは変えようがないのだ。壊す運命が目に見える。
「ふーん、。で、触らなくなって今にいたると」
「そういうこと。自慢じゃないけど画面の拡大すらできないわ」
「そこから!?」
「ええ。いつもはlineで文字打つだけだし。第一このスマホの顔認証って何なの? 意味わかんないんだけど」
「はあ~…しょうがないわね」
香蓮が呆れたと同時にチャイムが鳴る。
教室を離れると共に香蓮が言った。
「放課後、凛のウチにお邪魔するわ。私が全部やってあげる」
「は?」
いや学校でやってよ
なんて言葉は当然聞こえていないのか颯爽と姿を消していく。
相変わらずマイペースな香蓮に私は深い溜息を吐いた。




