楓さんすいません
「…部活は?」
「ないよ。気温が四十度近いから暫く部活禁止だって」
「そ、そう…」
今度は猛暑からの汗ではなく、冷や汗を感じながら身体を起こす。
楓が冷蔵庫からコーヒーを入れるとソファに座った。
コーヒーを飲みながら私を見下ろす。
「キモイからその動きもうやめてね?」
「ああああーー!! やっぱり見てたんだ!」
「お姉ちゃんも良い年なんだからさ」
「アンタと一個しか違わないわ!」
「だからこそ言ってるの。変に話し逸らさないで」
「くっっ!」
この妹はホントに毎回毎回いいタイミングで来すぎでしょ!?
だいたい話し逸らしてんのがわかってんならその話ししないでくれる?
「なに甘えたこと言っての。それに見た人が私じゃなかったら通報されてるよ?」
「こんなんで捕まんの?」
「わいせつ物陳列罪」
「誰がわいせつ物だ! …って、楓?」
「ん、なに?」
楓は疑問符を浮かべながらコーヒーを啜る。
それも涼しい顔で。
コーヒーカップからは湯気なんかも出てたりするんだけど…
「このクソ暑い日にホット? ていうか何で汗搔いてないの?」
「え? だってそりゃあ…」
「!?」
そういえばと、私は嫌なことを思い出し楓の腕を摑む。
すると…
「冷たい…アンタまさか…」
「エアコンつけてるけどなに?」
「アンタっっ最っ低!!」
私は絶叫する。
そう―――この家で二つしかないエアコン。それがリビングと楓の部屋なのだ。
「はあ!? なんでそんなこと言われなくちゃいけないの!!? お姉ちゃんだって付ければいいじゃん!」」
正義は我にありと言い返してくる我が妹。
知らないのは罪。
信じられない妹がこの世にいたものである。
「いつもなら点けてるわバカ! リビングのエアコン壊れたのよ! だから点けてないのよこのバカ! 少しは気をつかいなさいよバカ!」
「バカバカ言い過ぎ!」
言い過ぎなもんか。
こっちは昨日の晩からろくに寝付けないのだ。
それが朝になっても暑いままでずっと寝不足だったらどうだろ? イライラもするし当たりたくもなるのだ。
「そんなの知らないよ! だいたいエアコンいらないって言ったのお姉ちゃんじゃん!」
「っ!?」
「自分からいらないって言っておきながらイライラするとか、さすがにそれはないでしょ」
痛い所をつかれて言葉を失う。
いやだってさ…その時はそこまで暑くなかったんだもん。扇風機で十分眠れたし、たまに吹く風が最高に気持ちよかった。冬になってもヒーター使うからエアコンとは無縁だし。つける必要性を全く感じなかったんだよ。
「だからって私に怒ることないじゃん」
「うっ…」
まったくその通りなだけに項垂れる。
私は素直に謝ることにする。
「楓さんすいません」
「ちゃんと反省して」
「はい。ちなみにイライラしてたのは生理っていうのもあるかも」
「そんな情報いらないから」
楓がため息を吐いている。
私が反省してうつむいてると楓が腕を引っ張った。
「勉強するからいびき搔かないでよ…」
「え?」
「寝不足なんでしょ? 私のベッドで寝ていいよ」
冷たい腕とは裏腹にちょっとだけ顔を上気させて楓がいう。
照れてるのを隠す妹がまた可愛い。
さっきまで憎まれ口叩いてたのに…
「ありがと、楓」
私は妹の腕に抱きついた。
嫌がる妹をよそに冷たい身体と温かい心に触れる。
暑すぎる日も悪い事ばかりじゃないなと…
そんなことを思いながら。




