あれが残業の光よ
午後二十二時。
宿題が終わる。
部活が終わった後にやる宿題はいささか面倒ではあるが仕方がない。
高校受験はテストの結果だけでなく内申点の結果も合否に大きく影響するからだ。
自分の実力より高い高校を目指すのだから今からベストを尽くすのは当たり前。宿題を忘れたなんて失態は内申点に悪い影響を及ぼす。
多少面倒でもやらない理由がなかった。
椅子の背もたれに寄り掛かりながら伸びをする。
開けてあった窓から夜風が入ってくる。
「ん~…気持ちいい」
ひんやりと冷たい風が全身を包む。
部活や勉強での疲れを一瞬にして洗い流していく。
窓から外を眺める。
やけに明るい。
窓枠に寄り掛かって空を見上げればそこには満点の星が。
「……キレイ」
煌々と輝く月と何万光年からやってくる星の光。
宇宙には外灯や懐中電灯などという人工の光など存在しない。
むかし読んだ本のタイトルで『天の光はすべて星』っていう本があったけど、今がまさにそんな感じ。
今日は一段と宇宙が映えていた。
おおぐま座に獅子座にうしかい座。
こんなにはっきり見えたのはいつ以来だろう。
空気が澄んでいない地元では初めてかもしれない。
あらためて下を見てみれば街の明かりも少ないように感じる。
ならばそうか。
どうやら今日は絶好の星座観測日和らしい。
…まあ勉強しなくちゃいけないんだけどね。星座に興味ないし。
そういえば小さい時にお姉ちゃんが街の明かりを指さして、
『見なさい。あれが残業の光よ』
とか言ってたっけ。
むかしは意味わかんなかったけど今ならわかる。
どうやら姉は昔っからバカな人間らしい。
苦労したくないなら勉強しなさいよみたいな意味だとは思うけどそれにしてもだ。例えが例えだし仮に頑張ったところで何処の会社でも残業はあるだろう。そもそも残業=悪という考えも意味が分からない。
真剣に考えてもわからないことだらけなのでやっぱりここは姉がバカということでしめるとしよう。
さてさて休憩もこの辺で終わりかな。
勉強が出来ても姉みたいになっては本末転倒だとは思うけど当面の目標は西高に行くことだからね。
悩みはしても勉強しない選択肢はないよ。
私は身体の芯まで冷える前に窓を閉めると再び勉強に精を出すのだった。




