黙ってろビッチが
「すっごい探したんだからね!? LINEしても返事ないし!」
文句を垂れながら部室へと入って来る。
了承も得ずに堂々と正面突破して来るところは実に彼女らしい。
…まあ、言ってしまえばただの常識外れだが。
「にしてもよくここが分かったわね」
「探したって言ったでしょ? それより、ほら、帰りましょ。どうせ何もしてないんでしょ?」
「何だ…この失礼極まりない常識外れは…」
信じられないとばかりに声が震える。
そういえばアンタとは初めて会うわね。
「彼女の名前は宝城香蓮。イギリスと日本人のハーフよ」
「アナタとは初めましてね。凛の心の友にして親友の香蓮よ。よろしくね」
「ああ、よろしく。では早速帰ってくれ」
「はあ!? なんでよ!」
「見ればわかるだろ? 部活中だからだ。キミみたいに依頼人でもない奴が来るところじゃない」
「何よこの常識外れ!? 凛もなにか言ってやって!」
「いやアンタも大概よ」
何だか二人で言い合っている。
香蓮はもちろん涼も頑固なところがあるからお互い引くことがない。
「全然非を認めないのねアナタ」
「キミに言われたくない。しかし類は友を呼ぶとはまさにだな…」
「だれが類友だ、誰が」
「キミだろ? しかし良かったな学校に友達ができて。外を眺めるだけの日々もそろそろ限界だっただろ。ならば僥倖じゃないか、キミにとって。いやキミ達にとって」
「アンタねぇ…」
「そうよ! 友達じゃなくて親友って言ってるでしょ!? 二度と間違えないで!!」
「キレすぎ。黙って」
「はい…」
しゅんとしながら俯く。
ずっとこうしてたら可愛いもんだけどさすがは香蓮。あざとくも机の上の課題を見つけてしまう。
「え、なになに? 勉強してたの? 私が教えてあげよっか?」
「いいわよ別に。邪魔しないで」
「帰れと言ってるだろ」
「うるさい黙って。ねえ凛―そんなこと言わないで、ね? 凛が分かるまで付き合うから」
「うざい……」
香蓮に尻尾がついていたなら全力で左右に揺れていただろう。それほど香蓮は教えることに対して思い入れが強いみたいだ。
正直な話し別にここまで言われたら食い下がるのも気が引ける。それに今日の課題は難易度が高いから教えて貰った方が効率良くクリアできるってもんだけど。
勉強のくだりは避けたいしね。涼のためにも。
だって…
「キミはそんなに頭が悪かったか?」
頭が良いのか馬鹿なのか。…いや今回に限って言えば馬鹿なのだろう。
涼が間髪入れずにつっこんでくる。ほっとけばいいのに。
「失礼な奴ね。凛は別に悪くなんかないわよ。そんなことも知らないの?」
「知ってるからこそ聴いてるんだ。黙ってろビッチが」
「ビッチ!?」
「違うのか? 違わないだろ。昔からバカはビッチと相場は決まってるんだ。如月凛がキサマに教わるなどありえない」
「アンタねえ…言っておくけど私こう見えても学年一位よ!? 決してビッチなんかじゃないわ!」
「だろ? さすがはビッチ。学年一いだ、とおも…え?」
あーあー言っちゃたよ。
オチは見えてたけど。
涼の時間が止まってる。
口をパクパクさせて。
「キミが…一位……?」
「え、ええ…そうよ?」
毒気を抜かれたような眼差しにさすがの香蓮も戸惑っている。
無理もないけど一番戸惑ってるのは言わずもがな涼だよね?
可愛そうに。こんなバカそうな奴に負けちゃったんだもんね。プライドずたずただよね。気持ちはわかるよ。私もそうだったから。
「帰る…」
ゆっくりと立ち上がる
モノクロの時間が秒針を刻む。
涼はまるで減量を失敗したボクサーのように真っ白だった。
「すまんが鍵だけ頼む…」
「…なんかゴメン」
「謝るな…逆につらい」
そういうと、ゆらゆら左右に揺れながら部室を後にする。無事に帰れればいいけど、帰ってもモンモンとするだけだから寄り道とかした方がいいんじゃない? …もう目の前にいないけど。
しかし大丈夫か? 発狂しないか心配だ。
香蓮も香蓮で心を痛めてやしないだろうか?
「何だったのアレ? これだからバカな男は嫌いだわ」
「…………」
辛辣過ぎる一言だった。
真っ白な涼を見ても何の慈悲も抱かない香蓮を見て、ある意味凄いなと私は感心するのだった。




