ビオレさらさらシート
涼が着替える。
視界に入らないよう後ろを向く。
するすると衣擦れする音が部室中に響き渡る。
ちょっぴりエッチだ。
「いいぞ」
その声に安堵しながら振り返る。
私は向かいの席へと座る。
「始めっから学生服でいなさいよ、この変態」
「だから変態と言うのを止めろ。汗をかいてたから拭いてたんだよ。これでな」
これみよがしに見せて来たのはビオレさらさらシート。
すっごい乙女なアイテムね。キモ。
「うるさい。大体キミは知らないからそんなことが言えるんだ。このシートの効果は凄いぞ。ほら触ってみろ、さらさらだ」
「〝さらさらだ〟じゃないわよ気持ち悪い! 興味ないし触んないから!!」
「そう遠慮するな。憂い奴め」
「憂い奴て」
「俺はキミに触られても変態とは叫ばんぞ?」
「んなこと心配しとらんわ!」
「やれやれ…ホントにキミはうるさいな」
「アンタのせいだろーが!」
肩で息しながら言い返す。この男はいつもこんな感じだ。
細い眼鏡、目鼻立ちの通った顔立ち。
一見すれば〝美丈夫な優等生〟にしか見えない。
実際、成績も良いし女子からの人気も高いと聞く。
しかし、騙されてはいけない。
この男は顔が良いだけで決して優等生というわけではない。
口を開けばバカなことも平気でいうし他人の言動なんか聞いちゃあいない。
いつ何時、どんな時に会ってもはた迷惑な男で簡単に言えばただの変態なのだ。
いったいこの学校の女子はどこを見てカッコいいとか言ってるのか理解不能だ。
「単純に顔が良いからでは?」
「そうね。自分で言っちゃうところがまさに分かんないって感じだわ」
「自分の長所を理解することは悪い事ではあるまい。長い人生だ、自分の長所を分かっていた方がよほど利口な人生を送れると思うが?」
「悪いとは言ってないでしょ。自分で言ってるのがムカつくだけよ、このファッキン野郎」
「さすがに言い過ぎだろ…」
涼がうつむきながら眼鏡をなおす。
よーし! やっと一本取った。
「そんな競技に参加した覚えはない。それに俺はやることあるから課題でもやっててくれ」
「何よその言い方。黙ってろって言いたいわけ?」
「そうじゃないが…反省してるんだ」
「は? アンタが? ウソでしょ? 今日は厄日ね」
「随分な言い方だな。と…こういうやりとりが原因でもあるわけだが」
「回りくどい言い方。はっきり言いなさいよ」
「テスト…」
「なに?」
「今回のテスト…キミは何位だった?」
「二十八位だけど…」
はっきりいって答える義務はない。
ただ、あまりにも相手が真剣だったので考えるよりも先に答えが出てしまう。
「そうか…実はな…俺は中学からずっと一位を取り続けてきたんだが…」
「…………」
あー……
見えたかも。
オチが。
さらさらと揺れる金髪と共に。
どうしよ…慰めた方が良いのかな?
奇しくも同じ傷を負っていたわけだし…
〝ガラガラッ!〟
私が柄にも無く真剣に考えているとドアが乱雑に開け放たれる。
あー……
違うオチが見えたかも。
「ちょっと凛! 今日も一緒に帰ろって言ったわよね!? 何でこんなとこにいるのよ!!?」
揺れる金髪を引き連れた碧眼の美少女。
宝城香蓮が部室に怒鳴り込んで来た。




