あそこ偏差値高いもんね
今日は中間テスト。
三日間あるうちの初日だ。
お姉ちゃんたちは先週終わってるみたいだけど中学校では基本的に五月最終日に行われる。
(ん~…ちょっと自信ないかも…)
困ったように頭を捻る。
捻ったところで頭の片隅にある記憶が転がってくるわけじゃないって分かっているけど捻る。
しかし、やっぱり分からない。
これは将来を占う立派な試験。
ついこの前まで部活やっていたとか関係ない。
帰宅部も部活組も一緒。
部活で疲れていたとか関係ない。
部活を言い訳にするなら辞めればいいのだ。
なんて…なんて無慈悲な。
そりゃあ辞めればいいって言ってしまえばそれまでだよ? でもさ、温情というか人情というかそういった気持ちが部活動にも反映されて良かったんではなかろうか? 一週間前からでも良いからテスト終了まで部活動禁止にするとかさ。
両立してる人もいるんだろうけど、できない人だっているんだから。
「よくぬけぬけとそんなことを…」
「あ、優」
テストが終わり下駄箱で靴を履き替えてると部活仲間の優に声を掛けられる。しかも何だか不快な感じで。
「難しい難しいって言いながら結局学年トップクラスじゃん。嫌味にしか聞こえないんだけど?」
「……声に出てた?」
「おもいっきり」
「…………」
誰もいないのにひとり言とかやばいな…これじゃまるで空気の読めない誰かさんみたいだ。まあそれは兎も角。
「そう言われればそうかもだけど、私が狙ってるのって西高だから」
「あそこ偏差値高いもんね」
「そう」
「でも如月先輩の学校だもんね」
「その言い方やめて」
ニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでくる。
何を勘違いしてるか知らないけど私はただたんに自分の実力にあった高校を選ぼうとしているだけで決してお姉ちゃんがいるから西高にしている訳じゃないんだけど。大体お姉ちゃんのことが好きなのは優でしょ? その物差しで私まで図るのは些か迷惑…というより的外れって感じなんだけど何か言いたいことはありますか?
「まあ取り敢えず喋りすぎかな」
「うっ……」
「にしても良く頑張るよねえ。これもお姉ちゃんパワー?」
「だから違うって。知ってると思うけどわたし才能とかないからさ。凡人はやるしかないっていうか…」
そう。
私にはお姉ちゃんのような、やればやった分だけ力になるような才能はない。
〝十〟努力して〝一〟身になれば良い方だ。
これは決して自虐じゃない。逃げきれない現実だ。
隣を歩く優がこちらを覗き込んでくる。
少しだけ干渉的になった私を心配してくれたのかと思ったけど違った。
優は何故だか自信に満ちた顔でこういった。
「でも楓は凄いよ。こんな言い方したら楓は嫌かもしれないけど部活も頑張って勉強も頑張れるなんて凄い才能だと思うよ。嫉妬するのもバカらしいもん」
「どういうこと?」
「んー? 上手く言えないけど背中押されてるっていうかさ。楓以上に頑張ってないのに才能のせいに出来ないっていうか…」
んー…と、いまだ悩み続ける部活仲間。
思いがけない言葉になんだかちょっと気恥ずかしい。
自分ばっかりとか思ってたけど…
〝なんだ…みんな悩んでるのは一緒か〟
歩きながらバレない程度に優にくっつく。
私は優に笑いかけた。
「ありがと、優。そう言ってくれると私も嬉しい」
別れ道まで数百メートル。
優と二人、私たちは連れ立って歩いた。




