殴っていいですか?
休日の部活帰り。
一人で帰り道を闊歩する。
黄昏時になり気温はめっきり低くなった。
昼間のうだるような暑さがウソのよう。
湿気の無い爽やかな風が髪を撫でる。
優しく触れられてるみたいでこそばゆい。
「ん~気持ちいい。すっごい汗かいたからなあ、今日はいっぱい食べよ」
晩御飯なにかなあ…何て考えてると見慣れた料理人。
――もといお姉ちゃんらしき人が前方を歩いていた。
見慣れてるのに何故らしきかというと人と一緒に歩いているからだ。しかも金髪と。
別にそれだけならおかしい所など一つもない。友達と一緒に歩くなんて普通のことだから。ただ言い方を変えれば普通の人ならに限られるということ。
つまるところ、お姉ちゃんは普通の人には当てはまらないのだ。
ヒドイ? なんのなんの…本当に捻くれてるんだからあの人。理解して付き合っていける人なんて私くらい…げふんげふん。そうじゃないそうじゃない。
取り敢えず話しかけてみよう。
「お姉ちゃん!」
「あら楓じゃない。今帰り?」
「そうだけど…晩御飯は?」
「もちろん今からやるわよ。あっそういえば今日はお客さんがいるの」
お姉ちゃんが隣の金髪に目配せする。
金髪が話しかけてくる。間違いないあのプリクラの女だ。
「初めまして。妹さんよね? 宝城香蓮って言うの。お姉さんの親友よ」
「しん、ゆう……だと!?」
「違う違う。誰が親友よ…って、かえでーかえでー? もしもーし」
「妹さん?」
「…はっ!?」
いけないいけない…あまりの衝撃展開にトリップしていたみたいだ。
にしても親友ってなに? いつの間にそんな展開に!?
この前友達になったばっかりじゃないの?
「確かに私たちの関係は浅い。でもね、今日まで過ごして来た時間は血よりも濃いわ!」
「濃くないわよ。むしろさらっさらの透明よ」
「んなっ!? なんてこと言うのよ! 私がずっと傍にいてあげるって…」
「いなくて結構コケコッコー。つーかアンタ何様よ? 調子乗り過ぎ」
「凛はホント口悪す…」
「ああああああああああああああああああ!!!!! 目の前でイチャつかないでよもう!!」
なんて鬱陶しい…なんで金髪さんはこんなにお姉ちゃんにご執心なわけ?
「父さんが余計な事いうからよ…」
「あの叔父さん何て言ったの?」
「アンタ父さんのこと嫌い過ぎでしょ? …私がむかしイジメられてたとか何とかそんな話よ」
「ああ…その話しか…」
小学校時代の話しは私も当然知っている。
「あの…? ちょっといいですか?」
「楓?」
でもだからこそはっきり言ってやりたいことがあった。父さんではなくこの金髪に。
私は金髪を睨み据え、
「同情ですか?」
「ちょ、かえで!」
「お姉ちゃんは黙ってて」
もし同情でお姉ちゃんの傍にいるというのなら大きなお世話。
お姉ちゃんにも失礼だし私も良い気分じゃない。あの頃の出来事はもう当の昔に清算されてる。
今更出て来て何がしたい? 本人が気にしてないんだから同情なんてやめてよ。
「同情? 凛の妹にしてはバカね」
「んな!?」
「だってそうでしょ? 思ってもいないのに私がいつそんなこと言ったのよ」
「そんなの分かんないじゃな…」
「わかるわよ。少なくとも凛は分かってると思うわ。同情じゃないってことぐらい。私はね私が傍にいたいから凛の傍にいるの! ただそれだけよ」
「なに、それ…」
そんな子供騙しみたいな事を目の前で言われ面食らっているとお姉ちゃんが私たちの間に割って入って来る。
「あーはいはい。もう仲良くしなさいよ、まったく」
お姉ちゃんが呆れ気味に溜息を吐く。いつもとは逆の立場だけに少しだけバツが悪い。
「楓…私の為に言ってくれるのは嬉しいけど初対面の人に言い過ぎよ。今回は香蓮だったから別にいいけどさ」
「うん…ゴメン」
「ちょっとそこの姉妹」
疲れてたのかな…ちょっと突っかかり過ぎた。
お姉ちゃんがこんなに仲良くしてるんだもん。悪い人じゃないのは確かだよね。
わたしは頭を下げた。
「本当にごめんなさい。言い過ぎました」
「別にいいわ。気にしてないし」
いきなり突っかかったにも関わらずあっけらかんと言って自分の髪を靡かせる。お姉ちゃんの友達だけあって本当に良い人なのかもしれない。
「妹さんも面を上げて。言われ慣れてるし、誤解されるのはいつものことだから」
「そうなんですか?」
「ええ。可愛いからやっかまれるの。アナタが私に嫉妬するみたいに」
「さすがです金髪さん。殴っていいですか?」
「はあ!?」
前言撤回。この人ちょっと鬱陶しい。
「もう…頼むから仲良くしてよ」
「原因作ってるのお姉ちゃんなんだけど…」
この朴念仁め。どんだけ鈍感なんだ。
「ほら! 殴ってみなさいよ。私の空手をお見舞いしてやるわ!」
「はあ…ホント鬱陶しい…」
ギャーギャー喚き散らす金髪さんと一緒に私たちは帰路に着くたのだった。