もしかして王子様
「大丈夫如月さん…」
あまりにも非現実的なことに、つい〝クラッ〟ときてしまった私は橘さんに介抱してもらっていた。
橘さんが私の背中を優しく擦る。
息遣いが首筋に掛かる。
短い髪が静かに靡く。
「…………」
なんだか心地良い。
中世的な顔立ちが心の色を映しているよう。
…何か普通にカッコいいな。もしかして王子様ですか?
いやいや…女だぞ?
「ゴメンありがと…もう大丈夫だから」
「でも…」
「いやホント大丈夫だから」
無理矢理身体を起こす。
これ以上介抱されたらイケない扉を開けてしまいそうだ。
「橘さん、もう一度確認したいんだけど、あのラブレターは橘さんので間違いないんだよね?」
「……うん」
自信なさげに頷く。
なるほど。橘功なんて男の子いないはずだ。この容姿と格好は間違いなく女の子だもん。
同性同士の恋愛に興味でもあるんだろうか?
したくないけど一応確認しとかないと。
「その…橘さん…わたしも女の子なんだけど……」
「………クスン」
「ちょッ!? なんで泣くの!!?」
綺麗な二重に涙が貯まっている。
一見すれば宝塚のようなカッコいい風の女子なのに心はしっかり乙女みたい。
でもだからって泣くの早すぎ。私まだ何も言ってないよ?
「だって……如月さん、振る準備に入ってるから…」
「準備て…いや間違ってないけどさ」
「やっぱり……」
ついには両手で顔を覆って泣き出す。
罪悪感で心が痛い。
「あああゴメンゴメン! 泣かないでよもう!」
「だって…だって…」
とめどない嗚咽を交えながら言葉にならない言葉を紡ぐ。
ねえこれどうしたら良いの?
どうしたら正解なの?
だって私は完全にノンケだから付き合うのは論外だし、かといって今みたいに振ろうとすれば泣き崩れる。いやもう泣き崩れてるけどさ。
もちろん悩んだところで断る以外の道はないんだけど…悩むところは言い方だよね。言い方。
向こうは一応、同性愛者? であることをカミングアウトしてるようなものだし下手に傷付けて学校に来なくなっても困る。
んー……なんて言ったもんか。
……………
―――あーもう全っ然出てこない!
出てこないから、ここはあえてベタな所を付くとしよう。
「ねえ…橘さん」
「……なに」
「現段階で正直付き合うっていうのは難しいから〝友達〟から始めませんか」
泣いている彼女に手を差し伸べる。
友達になりませんか?
どこぞの漫画にでもありそうな有り触れた展開。でもしょうがない。
有り触れてるってことはそれだけ望まれた展開だから。
誰もが納得できる言い落としどころという事だろう。
それはもちろん私にとっても。
これが互いに出来る最大の譲歩。
付き合うのは無理だけど…友達ならいいよね?
「友……達?」
「そう友達から。一緒に遊びに行ったりしよ」
「…嫌じゃないの?」
「さっきはごめんね。でも嫌じゃないよ、それはホント。だから暇な時は誘って」
「…うん!」
眩いばかりの笑顔と共に私の手を握ってくる。
目尻にもう涙はない。
無論、これが思い描いた未来ではないだろう。しかし、互いが笑い合えている以上、これ以上の結果は望むべくもないのだ。
きっと彼女の中でも良い落としどころだったのだろう。
私もこれで一安心。
「ねえ如月さん」
「なに?」
「週に七日は遊ぼうね!」
「え…? ははは…冗談だよね?」
にっこり笑顔で華麗にスルー。
なんとなく不穏な空気を感じつつ…
私は橘さんを正門まで送り届けると、不安をかき消すように部活へと急ぐのだった。
余談ですが今回の話は自分の体験談を交えました。
当時は体育館裏では無く、学校の裏庭で木が生い茂った雑木林みたいな場所だったんですが…歪むんですよ。人間ショックを受けると。空が(笑)
私は楓みたいに優しく無かったですし、最初同性と付き合うっていうのが考えられなかったので断ってしまったのですが…もっと良い断り方があったのかなって思います。
すいません。長くなりましたね。
今後ともよろしくお願いします!