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私の妹(姉)が可愛すぎる!  作者: カオルコ
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恥かく前に早く言ったほうがいいのよ

 全体の八割を終わらしたところで時間を確認する。いつのまにか時刻は18時前になっていた。


 グラウンドから聞こえていた部活の声は少なくなり、代わりに四月特有の真っ赤な夕日が教室に差し込んできていた。


 「もうこんな時間か」


 ちょうど読み終わったのか本を閉じて涼が時計を見る。 私は涼を一目見ると課題をカバンの中へとしまった。


 「なんだ、なんか用事でもあるのか?」


 聞かれ、手を止める。別に用事という程のことでもないが夕飯を作れるなら作ってあげたいだけだ。無論、部活を始めたのは親にも報告済みなので遅れても問題はないのだが。


 「では、もう少しだけここにいたまえ」

 「なんでよ、もう終わりなんでしょ?」

 「違う、まだ終わってはいない———ほら」

 「ん?」


 私の疑問に答えぬまま涼は自分の鞄を漁ると中から一枚の紙を取り出した。

 そこには総務部活動依頼書と書かれたプリントが一枚。


 「見たまえ、これが依頼書だ。脈絡なく依頼人が来る時もあるがこうして依頼書を通じて来る時もある」

 「へーそうなんだ、っていきなりなに?」


 とりあえず読んでみろと言われ依頼書を手渡される

 そこには今日の日付と時間が示され「よろしくお願いします」とだけ書かれていた。


 「これって……」


 何だか嫌な予感がして変な汗が止まらない。


 「まさか……今日、来るの?」


 涼は無言でメガネを外すと真っ直ぐにこちらに視線を向け、言った。


 「そうだ」

 「はああああああああああああ!?」


 私の手からスルリと落ちた依頼書が踊るように宙を舞う。


 「ちょっと、何で今言うの!! 遅すぎでしょ!? 私が来て何分たったと思ってるのよ! それにこの時間ならもうすぐ来ちゃうじゃない!」


 相手も多少悪いと思っているのか外したメガネを掛け直して何も言わずにしれーと横を向く。それメガネ外した意味あったの? つーか謝れよ。


 「遅れたのは悪いと思っているが言った所で何も変わらない。依頼主から話を聞かないことには我々は動くことが出来ないのだからね」


 いやいやそういう問題じゃない。こっちにも心の準備がある。来ると分かっているのといないのでは心の構え方が全然違うし何より今日の雰囲気から来ないと私の中で確定してしまっている。そりゃあ勝手に思い込んでしまった私も悪いが文句の一つや二つも言いたくはなる。


 「君の言い分もわかるがそろそろ席に着きたまえ。もうすぐ依頼主が来る」

 「なにその言い方…あんたのせいで、こっちが余裕なくなってるのに一回ぐらいまともに謝んなさいよ! 話はそれから…」


 なおもまくし立てるように食って掛かろうとすると、不意に扉がノックされ人影が写る。


 多分依頼主だ。


 それを見た涼が目で訴える私に手の平だけであっち行けと合図する。


 煮えくり返る思いを顔で表しつつ人が来てしまってはもうどうしようもないので椅子に座って姿勢を正す。後でちゃんと謝ってもらいますから。


私が席についたのを見計らって涼がノックに返事を返した。するとゆっくりと扉を開けながら失礼しますと言って一人の男子が入って来る。


 少し小柄で、メガネをかけた気弱そうな男の子だった。


 「あのう…ここって総務部の部室で良いんですよね?」

 「無論だ、かけたまえ」


 言いながら手元の椅子を勧めすでに話を聞く体制へと移行している。褒めたくはないがさすがに慣れている。そしてさっきまでのやり取りを忘れている。


 「ありがとうございます。そういえば僕のことってわかりますか? 自己紹介した方が良いですよね」


 その質問に対してお互い頷く。見たことぐらいはあるが一応名前ぐらいは聞いておかないと。


 「萩原洋介と言います。今日はよろしくお願いします」


 座りながらではあるが、深々と礼をする。


 不思議なものでこれだけで彼の純朴さを多いに表しており会って間もないというのに勝手に私の中で良い人として解釈される。これが生まれ持っての人柄というものなのだろうか。どっかの誰かさんとはえらい違いである。


 「どっかの誰かさんとは違い君は偉く礼儀正しいんだな。で、依頼内容は何かね?」

 「誰のことですかーそれ誰のことですかー!!」

 「安心したまえ。君ではない」

 「じゃあ、誰のこと言ったわけ?」

 「………………」

 「いや、黙るなよ!? つーかやっぱり私じゃん!」


 椅子から立ち上がり言い返そうと詰め寄ると、横から笑い声が聞こえてくる。


 「ハハッ…と、ゴメンゴメン。つい笑っちゃった。仲良いんだね…えっと…」

 「涼だ、土屋涼。涼でいい。で、こっちは如月だ」

 「じゃあ、涼くん。仲良いんだね、如月さんと」

 「冗談はよしてくれ。仲良くした覚えなんて微塵もない。君もそうだろう?」

 「当たり前。洋介くん冗談はやめてくれる? それとも、良い人だって思ったのは私の勘違いで洋介くんは悪い人か何か?」

 「ち、違う違う。気分を悪くさせたのなら謝るよ。ゴメン…」


 冷静に考えれば悪いのはこっちなのだがこの謝りよう。なんだか申し訳なくなってくるが、こっちも多少は腹が立ったのでお互い様だ。


 「別に怒ってないよ。で、話って?」

 「あ、うん。その…その前に、一つお願いがあるんだけど……良いかな?」


 聞くまでもなくそれを聞く為の私達なのだがそこに確認を取るあたりが彼の性格なのだろうか。頷いて続きを促す。


 「このことはここだけの秘密で協力して欲しいんだけど、ダメかな? もちろん、協力してくれたらって話だけどあまり人に知られると恥ずかしいっていうか…」


 少し気が抜ける。何を言われるのかと思えばそんなことか。


 友達や親に頼めない内容だからここに来ることぐらいは私にも察することができる。そんなこと言いふらすつもりもなければいちいち言う友達もいない。それはアイツも一緒なのか、


 「元よりそのつもりだが承知した。我々だけで対処しよう。で、その内容は?」

 「………」


 よほど恥ずかしいのか下を向いて言いよどむ。


 正直、私は私で少し緊張していた。何を言われるかわからないし、なにより初仕事。しかもこれが上手くいけば推薦も難しくないのだ。緊張するなという方が無理がある。


 「あの、その……」


 その…何?


 「その………ね?」

 「………」


 あああああああああああ、じれったい! 早く言いなさいよ!! いくらなんでも伸ばしすぎ!!! 大体、必要以上に伸ばす時って大抵たいしたことないんだから。恥かく前に早く言ったほうがいいのよ。


 そんな心の叫びが通じたのか意を決したのかわからないが洋介の顔つきが変わる。彼の中で決心が付いたようだ。


 緊張の瞬間である。


 「その…あのね……告白を手伝って貰いたいんだけど…いいかな?」

 「…………は?」


 グランドの静けさと比例するように静寂が包みこんでいく教室で、私の間の抜けた声だけが虚しく響き渡った。

読んで下さりありがとうございます。


また更新します。

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