しかもまたイチャついてるし
体育祭が終わってから幾日が経った。
あの頃の喧噪がウソのように鳴りを潜め、寂しいなと感じていたのも束の間、いつの間にかそれが日常とかしていた。
「お茶よ、凛」
「…どーも」
それは私たちだって例外じゃない。
総務部は久しぶりの部活となったがやけに静か。いつもなら香蓮が率先して喋るんだけど…。
「ねえ何飲むのクソめが…間違えたわ。クソ眼鏡は何飲む?」
「全然言いなおしてないが?」
…とまあこんな感じでいつもはしないお茶出しで怒りの表現をされている。
イベントが終わって欲求不満なのか発散するにも出来ないのが余計にストレス溜まるのか。理由はさまざながら言えることはただ一つ。原因は私たちだろう。
「ゴメンって、香蓮。映画に誘わなかったの怒ってるんでしょ?」
「んーー? なんのことーー?」
そう言いながら笑顔をつくる。眉間にシワが寄ってるあたり演技なのはみえみえ。これではアカデミー賞は狙えないだろう。つーかお茶こぼれてるわよ?
「あらいけない。ちょっとそこのアナタ舐めて拭きなさいよ」
「めちゃくちゃだな…鬼畜すぎるだろ」
「いいえ良心的です。いいから早く拭いて」
「自分でやれ。だいたい映画ぐらいでへそを曲げるな。バカが」
「ぐ、ら、い、ですっってぇ~~~!!!!!」
その一言が怒髪天をついたのか目の色を変える。ちょっと涼、言葉選びなさいよね。
「選んだぞ。選んだ結果がこれなんだから仕方がないだろ」
「開き直るなバカ。そういうとこがダメなのよ。女子に嫌われるタイプね」
「キミはどっちの味方なんだ…」
「正しい方の味方よ。正義の味方ですから」
「は、言ってろ」
「イチャイチャしないでっ!」
「「ひっっ」」
机が大きく揺れる。食器が割れるんじゃないかと思うほど香蓮が声を張り上げる。ゴメンゴメン。そんな怒らないでよ。今度埋め合わせするし。
「凛はそればっか! 埋め合わせすれば許してもらえると思ってるでしょ。わたくしだってそんなに単純じゃないんだからねっ!!?」
「そんなことないって。単純に香蓮と遊びにいきたいのよ。だから許して、ね?」
「…しょうがないなぁ」
「ちょろ過ぎるだろ…」
涼がはっきりと呆れた声を上げる。まあ言いたくなる気持ちも分かる。
「もう~そうならそうとはっきり言いなさいよね❤」
先程までの怒りは何処へ。
ルンルン気分で鼻歌を歌いながら席につく。裏表が激しくて怖すぎる。変わり身はやすぎ。
「あらそうかしら? わたくしは自分らしく生きてるだけよ」
「自分らしくねぇ……」
若干の違和感…その呟きにそれを感じ取った訳ではないだろう。きっとそう。どちらかといえば前から疑問に思っていたのだ。
香蓮は突然こんなことを言いだした。
「ねえ、凛ってどうしてこの部活に入ってるの?」
そう。きっと前から感じていたのだ。
私が、如月凛が、どうして人助けをするような部活に所属しているのか? と。
まあ私と付き合いがあればふしぎに思うよね。別に話してあげてもいいんだけど…
「おい金髪。それ以上はやめとけ」
「な、なんでよっ!」
「人には聞いていい事と悪いことがある。この話しは後者だ。やめとけ」
意外にも涼が庇ってくれている。話さなくていいと。何この人…たまにはカッコいいとこあるじゃないか。
「茶化すなバカもの。キミのためじゃない」
「~~っ! なによそれ……!! しかもまたイチャついてるしぃ~~!」
地団太を踏む香蓮はまたしてもキレそうである。お姫様の機嫌をとるのはとても難しい。涼が庇ってくれるのは嬉しいけど大事なのは今。過去と今を比べるなら優先順位は考えるまでもないだろう。
「そうかっかしないで。別に入部した経緯ぐらい話してあげるわ」
「おい」
「別にいいって。なにをそんなに心配してるのよ?」
「…べつに心配ってほどじゃないが」
「むかしの話しよ。むかしの。安心して、アンタも十二分に登場させてあげるから」
「…だから嫌なんだが」
とは言いつつもやっぱり涼なりに心配してくれたんだろうな。だって話さなくていいなら私だって話さないし、事実今日まで言ってないしね。
「凛が嫌っていうなら…別にいいけど…」
「嫌じゃないって」
でもせっかく出来た友達が聞きたいって言うんだもの。話してあげるのがスジってもんでしょ?
「そうねえー…あれは入学して二週間ぐらいだったかしら…」
人助けを主とする生徒会総務部。
なぜ私がこんな部活に所属することになったのか。
これは短くも濃い約一ヶ月間の物語。
そうだな…端的にいって『青春の一ページ』というやつだろうか。
私と涼の出会いの話しでもある。
ではではじゃあさっそく―――
話していこうじゃないか。
呼んで下さりありがとうございます。ここから長いです笑
また更新します。