コンコルド?
全校生徒がグラウンドに集められた。校長がいつも通り長ったらしい話しをする。しかし、それもこれで終わり。
集められた理由は閉会式。体育祭は無事終わりを迎えた。
「はあーやっと終わったわね」
閉会式が終わり未来が話し掛けてくる。終わった余韻に浸るよるも終わった事が単純に嬉しいのだろう。良いなコイツは単純で。
「なに不機嫌になってんのよ? …あ、分かった。まだ気にしてんだ」
「…うっさい」
この場合、否定は肯定みたいなものだろう。まあそれこそ否定するつもりもないんだが。
どうやら自分は分かりやすい性格らしい。
でもしょうがないじゃないか。
「そりゃアンタは別にいいだろうけどさ…」
「そういうからには勝てると思ってたんだ。あの空手部に。大層は自信だったわね」
「くッ…!」
そう。
ほぼ同時に最終のスタートをきった部活対抗リレー。
いつの間にか始まった私と柚子の最終決戦。
正直に言おうか? 私は勝てると思ってた。自惚れではなく、柚子の運動能力や私との体格差を考慮に入れてだ。だから当然…当然勝てるもんだと…
「くっそーーーー!!!」
結果、私は負けた。
予想とは打って変わり後塵を拝すこととなったのだ。
だから…ね? 叫びたくもなるってもんでしょ。
「いや普通にうるさいから…」
ひど…そりゃさー叫んでも結果は変わらないよ? でも口に出すことで晴れるものもあるはずなんだよ。実際ちょっと気分回復。
「如月が良いならそれでいいけどさ」
未来もそれ以上なにも言わず校内へと入って行く。口に出さないだけでコイツも結構悔しいんだな、きっと。
「クククっ…如月、約束は覚えているだろうな」
「げッ!? チビッ子!!?」
今や天敵。道を塞ぐように柚子が仁王立ちしていた。
最悪。晴れた気分が曇っていくじゃない。
「わたちは最高です! 何て言ったって如月に勝ったんですから!!」
「あーそうね。はいはい負けました負けました。認めてるわよ、もう」
「くううう~…その言葉が聞きたかったんです! ありがとうございます。やりましたよ! やりましたよみなさん!!」
なぜか拍手するギャラリーに手を振るチビッ子。ちょっとしたヒーローかな?
「にしてもアンタ速かったわね。むかし何かやってたの?」
「実は陸上部でした! 空手は高校から始めたんでし」
「それでリレー勝負なの? 卑怯にも程があるわね」
案外狡猾な奴だな。ただのバカじゃなかったのね。
「うるさいでし。それよりも勝ちは勝ち。約束は守ってもらうでしよ」
「あったりまえよ。負けたのは事実なわけだしね」
そりゃ負けて悔しいのは悔しいさ。でもそれで約束守らないとかはない。何でもやってやろうじゃないか。
「じゃ…じゃあ言いますよ! 覚悟はいいでしか?」
「何の覚悟よ。どんなお願いでも良いけど常識の範囲内にしてよ」
「じゃあ言いますよ! 覚悟して下さい!」
「はいはい。早く言って」
「あ、あ、あの…こん…今度……い…一緒…に」
「あああん? 何? 聞こえないわよ」
何だこの落差は…。さっきまでのドヤ顔はどうしたんだ。こんこん何? コンコルド?
「もうお姉ちゃん違うって」
横から援護したのはマイシスター楓。どうでもいいが、なぜお前が向こうの代弁をする? つーか急に出てくんな。
「ひっど! もう帰るから一言いいにきたのに」
「あらそ。で、このチビッ子はなにが言いたいのよ。それだけ言って帰ってよ」
柚子は未だにあーだか、うーだか言って何を言いたいのか分からない。私だって超能力者じゃないんだからそれでは伝わらない。…楓は分かるらしいけど。
「はあ…お姉ちゃんホントそういうとこだからね? あのねきっと柚子先輩はお姉ちゃんとどっか一緒に行きたいのよ」
「は?」
「だ、か、ら! どこかに出かけたいんだって。ね、そうでしょ?」
優しく柚子に語り掛ける楓はもはや後輩には見えず完全に先輩である。まあそれは今はどうでもいいが。つーか出かける? どこに?
「ねえ柚子先輩、正直に言わないと後悔しますよ? せっかく勝負に勝ったんですから」
「う、うむ…」
楓の言葉が響いたのか目の色が変わる。自信なさげだったのに覚悟を決めたようだった。
「如月! ライバルと見込んでお前に頼みがある!」
「お…おう…な、なによ?」
「その…一緒に映画を…」
「は? 映画?」
「う…うむ! 映画を一緒に行って欲しいんでし。実はチケットが余ってて…わたちも友達少ないから…」
「悲しい理由ね…」
まあ理由はともかく…。しかし何だそんなことか? こっちは何でも言う事きくって約束だっただけに結構身構えてたんだけど。
「別にいいわよ。行ってあげる」
「ほ…! ホントでしか!?」
「ええ。むしろそれくらいいつでも付き合うわよ」
「お、お前…案外良いやつでしね…!」
眼をキラキラ輝かせてこっち見てるけどそんなことで見直される今までのイメージは何だったんだ?
「悪魔」
「たらし」
「悪魔でもたらしでもねーわバカ。あ、じゃあ映画ならもう一人呼んでもいい? 約束してる奴がいるのよ」
「わたちの知ってる奴でしか? 人見知りするから知らない人は呼ばないで欲しいでし」
「アンタここにきて正直になってきたわね…」
「もう一人…お姉ちゃんそれって…」
その人物に心当たりがあるのか楓がゲンナリしている。そんな顔したら先輩に失礼よ。
「失礼なのはお姉ちゃんだから。はあ…涼さんもがっかりするだろうな…」
遠くを見詰めながら未来を憂う妹はまるでキリストの神のよう。なぜに呆れる?
「呆れてない。諦めてるの」
「余計悪いわ」
「悪いのはお姉ちゃんだから。じゃあ私夕飯買って帰るから。またね」
そう言って手の平をひらひらさせると颯爽と帰っていく。後ろ姿がちょっと怖い。帰ったら機嫌とらなきゃ。
「…いいんでしか? 一人でいかして」
「いいのよ。あとで十分可愛がるから。それより今は…」
「りーーーーん!!!!」
「ほら来た…」
金髪を乱して遠くから走って来るのは宝城香蓮だ。
人波を掻き分けてといった例えがあるが香蓮の場合人波に全力タックルを決めている。また恨み買うぞきっと。
「ほら柚子行くわよ! 香蓮に感づかれたら厄介だもの!」
「…ぷ。…ハハハハハ」
「な、なによ」
「ハハハ…な、なんでもないでし。まったくお前といると面倒くさいことばっかりだ」
「なーに言ってんの。こんぐらいでまいっちゃこの先やっていけないんだから。さ、向こうで予定たてましょ!」
身をかがめてこの場を去る。香蓮にはあとで埋め合わせをしよう。悪いけどここから先は秘密の会合だ。
いつの間にか始まった対戦だったけど終わってみれば案外悪くはなかった。むしろ楽しかったし良い思い出になりそう。
巡り廻る時間の中できっと今は特別だ。それが長く続くように、続けられるように、今を努力しようじゃないか。
例え敵同士でも、こんなに楽しい未来になるのだから。
読んで下さりありがとうございます。
また更新します。