今までで一番かも
『それでは競技を始めます。一番走者の方はレーンに入って下さい』
部活対抗リレーだがそもそも全部活が一斉に走るかといえばそういう訳ではない。
五チームで三組に別れて予選を行い一位と二位が本線に出れるといったはこびだ。幸か不幸か総務部と空手部は同じ組同士。ここで勝敗は決することになる。
一番走者は楓だ。
『楓ちゃん頑張れーっ!』
『妹さんファイトー!』
『結婚してくれぇーー!!』
さすが楓。ちょっと学校に来ただけなのにこの人気である。芸能人にでもなれば一躍時の人だろう。不穏な応援もあるからマネージャーは任せろ。
そんな楓はというと…まあやっぱり流石だ。
気にしてない。っというか聞こえてないのだろう。それだけ集中している。
きっと誰の声も聞こえないのかもしれない。でも私は声を掛ける。だってお姉ちゃんだし。
「がんばって楓。私も頑張るから」
そう声を掛ける。
大きな変化はなかったけど一瞬楓の顔が緩んだ気がした。
っパン!
乾いた音が鳴る。第一走者が一斉に走り出す。
さすが相手は高校生。体格が劣る楓はすぐに見えなくなった。
しかし陸上部は伊達じゃない。見えなかったのも一瞬、すぐに楓が顔を出す。みなを一斉に引きはがす。気付けば一番にバトンを渡していた。
「やった! さっすが楓!!」
楓がへばりながらこちらにグッと親指を立てる。なんだなんだカッコいいな。後でイイ子イイ子してやろう。
いやそんなことより二番走者の涼はというと…
一番…二番…どんどんと抜かれて未来にバトンを渡すときには三位になっていた。まあ仕方ない。各部活の代表が走ってるわけだしね。楓が特殊なだけでそりゃ抜かれるよ。
「ぜえぜえ…すまん…すま…おえっ」
「ふははは!…。あ、ごめんなさいね。大丈夫?」
いかん思わず笑ってしまった。一生懸命頑張ったんだから誉めてあげなきゃ。
「よく頑張りました。褒めてつかわす」
「…バカにしてるだろ」
「してないって。感謝してるし何よりカッコ良かったわよ? 今までで一番かも」
「……っち」
ありゃりゃ…怒ってどっか行ってしまった。まあいいけど。
「そういえば未来は…あ!」
なんとなんとびっくり一人抜かして二位に躍り出ていた。さすがヤンキー。体力が有り余ってるのね。
続いてバトンを貰ったのはウチのトラブルメーカー宝城香蓮だ。言うまでも無く大穴も大穴である。実際予想通り二人に抜かされて戻って来た。ちなみに最後に抜かしていったのは空手部の美樹先輩だった。ということは…
「一騎打ちですね…如月凛」
完全に舞台は整った。
一対一。バトンを渡す走者に差はほとんどない。おもしろい。
柚子が一足早くバトンを貰う。一秒か二秒か…数瞬の差で香蓮が追いついた。
「抜かれてゴメンなさい凛。お願い勝って」
「任せなさいっ!」
力強くバトンを渡され思わず全身に血流が流れていく。集中力が増す。
私は柚子の背中を追った。
勝負はまさに五分と五分。
全身に応援を浴びて私は全力で走っていた。
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