処女だけはあげませんよ?
昼食後、私はチームメンバーに説明をしに行った。負けても私以外に迷惑は掛からないと思うけど一応は説明の義務がある。
正直なんで私が言い訳がましく説明せにゃならんのだって感じだけどここで愚痴っててもしょうがない。先に謝ってしまうのが賢明だ。
まあだから…っという訳ではないだろうけど素直に謝ったら未来は許してくれた。それどころか『どうせあの金髪が原因でしょ。今後の付き合い考えたら?』などと大変ためになる助言をいただいた。わたしもホントそう思う。
しかし未来は良かったけど問題は未来だけではない。もう一人いるのだ。
しかも案の定、お怒りである。
「勝負?」
眉間にシワがよっても大変凛々しいご尊顔。
残りの一人とは我らが部長、土屋涼だ。怒っててもカッコいいのはさすがである。
「わざとらしく機嫌を取るんじゃない。逆に腹立つ」
「――あらそ。じゃあ聞き返さないでよ面倒くさいわね。勝負ったら勝負よ。それ以外何があんのバカじゃない」
「開き直るのが早過ぎるだろ…。にしても君たちは学ぶということをしらんのかね? 毎度毎度やっかい事をもちだして」
「悪いのは香蓮だっつってんでしょ。それに学んでるからこそ被害をこれだけに押さえられたとも考えられるじゃない? ようは考え方よ」
「減らず口を…もういいわかった。後は君たちで何とかしてくれ。俺は降りる」
「は? はあああああああっ!!!?」
後ろを向いて帰ろうとする涼を引き留める。驚き過ぎて半分無意識だ。
「ちょっと待ちなさいって! 練習中のやる気はどこにいったのよ!」
「あの時は君が妹くんの為に頑張っていたから協力したんだ。だがこの勝負は違うだろ。君とあのバカが原因だ。俺は関係ない」
「ぐぬぬぬ…」
さすが学年二位。口喧嘩も強い。反論できる余地が皆無である。
「わかったら他をあたれ。怪我を理由にすれば代理も認められる。俺はもう付き合いきれん」
「何それつめたっ!? …ふっふん! なによ優等生ぶっちゃって。アンタどうせ走りたくないだけだしょ。ホント運動音痴なんだから!」
「そんな安い挑発にはのらんぞ。金髪バカじゃあるまいし」
「じゃあどうしろっていうのよっ!? 協力しろっていってんでしょホント性根が腐ってる最低っ!」
「逆ギレするようじゃ底がしれたな。じゃあな如月。応援ぐらいはしてやるよ」
「ゴメン待って待ってっ! お願い協力してよ」
「いやだ。他をあたれ」
「お願い!なんでも言うこと聞くからさ!」
「……なんでもだと?」
「え? え…ええ何でも。何でもよ。何でも言って、ほら!」
何でもに引っかかったのか涼が至極思った以上に考え込む。
はっきり言って意識して言ったことではない。必死で引き留めようとしてつい口から出てしまったのがこの言葉だったというだけ。ニュアンス的には、一生のお願い! に近いものがある。だからこんだけ考えこまれると正直怖い。処女だけはあげませんよ?
「君は俺のことをなんだと思ってるんだ?」
「鬼畜変態総務部長だけど他になにか?」
「聞いた俺がバカだった…」
「じゃあ何考えてたのよ。自分で言っておいてなんだけど簡単なやつにしてよ」
「いや…大したことじゃないんだが……」
「…? なによ早く言いなさいよ」
さっきまで言い合いしてたのに急にしどろもどろになる。体調でも悪いのかと思ったけどそうではないらしい。
涼は少しだけ顔を赤らめて言った。
「実は映画のチケットが二枚余ってるんだ……」
「映画? それで?」
「で…だ。一緒に行かないか?」
「は? 何よそれデートの誘い?」
あまりのしょうもない願いに口が半開きになってしまう。
しかし涼は必死に否定する。
「ち、ちちち違うっ! 違うぞッ!! 断じて違う!! ただ単にホントにたまたまチケットが余ってただけでデートなどでは決して……」
「分かった…分かったって。そんなに否定しなくていいから」
何をいうかと思いきやそんなことか。
たかが映画ぐらいいくらでも付き合うのに。前にラーメンだって食べ行ったじゃない。何を言いよどんでんだか知らないけど気をつかう順番が逆だと思うわ。
「む…そうか?」
「そうよ。普通はラーメンのが誘い辛いでしょ。まあ私はどっちにしろ誘われたら付き合うけどね。友達少ないから大体暇だし」
「寂しい理由だな…」
「うっさい。じゃあ交渉成立ってことでいいわね。いっよーしッ! じゃあいっちょ気合入れて勝ちに行くわよ!!」
準備は万端。
私は高々と拳を振り上げた。
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