わたちは犬猫じゃねーですよっ!
「なあ~に良い感じでまとめていやがるですかっ!? まだ終わっちゃいねーですよ!!」
のっしのっしと歩くさまはまるで野生の獣である。性懲りもなくまた来たなバカめ。
「バカは如月、おめーなのですよ。覚悟するです」
「なにを覚悟するのよ。しつこいなあ今日は」
「わたちを無視する方が悪いのです。今度こそ容赦しないです」
これでもかとドヤ顔で決めてくる。今日一番のキメ顔である。
私はイラっときて、
「あとにしろっつってんの。今やろうってならぶっ飛ばすけどいいわけ?」
「ゴメンなさい言い過ぎました。食事続けて下さい」
「だから弱過ぎでしょ…」
てんどんなの? とツッコミを入れようとしたところで柚子の後ろから人影が二つ。これまた見慣れた面影だ。
「ごめんなさいね如月さん」
「すまんな如月。食事中に」
そう声を掛けて来たのは空手部の面々、咲と美樹先輩だ。
「あら久しぶり。二人とも忙しそうね」
「私はそうでもないけど咲は忙しいわね。今日も昼休憩で初めて喋ったもの」
「そうだっけ? 確かにあっという間に午前の競技終わっちゃったし気付かなかった」
咲は体育祭実行委員だ。
あっという間などとこともなげに言ってはいるが休みなく働いていた証拠だろう。感覚がマヒしているのだ。社畜って怖い。
「誰が社畜だ、誰が。だいたい実行委員も始まっちゃったらそこまで忙しくないからね。各クラス委員に仕事ふってあるし」
「へーそうなの」
「…全然興味なさそうだな」
ゲンナリした表情で言ってくるがバカ言っちゃいけない。私はいま食事中だっつってんでしょうが。早くこのチビッ子持って帰りなさいよ。
「おい首根っこ掴むな! わたちは犬猫じゃねーですよっ!」
柚子がじたばた暴れる。力任せに持ち上げて放ってやる。そーれ!
「人を投げるなって。ったくお前は…」
「いいじゃない被害者は私なんだから。空手部にも顔出すから許して。また組手しましょ」
「ならいっか」
「よかねーです!!」
またもや騒ぐ柚子。話しが丸く収まったんだから早く帰りなさいよ。
「あのね如月さん…」
そういってきたのは美樹先輩。
おっとりとした雰囲気が男女共に人気を博している。空手部にしておくには非常に惜しい逸材である。
「お姉ちゃん何言ってるの?」
「人の心を読むな。で、美樹先輩なんですか?」
「柚子ちゃんね如月さんのこと大好きなのよ」
「せせせせせ先輩っ!? 急に何言ってやがるですか!!?」
さっきまでの好戦的な態度から一変。これでもかというくらい狼狽している。
「あーそうですか。それで?」
「興味もて!」
「うっせーチビッ子」
「でね…ずっと勝負を挑むのもきっと意識して欲しいからだと思うの」
「はあ…」
「だから邪険にしないであげて。出来たら部活対抗リレーで勝負して欲しいの」
そんなふうに言われてもなあ…。こっちはそんなつもりでリレーに参加してないわけでね?
でも、その優しい瞳で言われたら断りづらい。美樹先輩に懇願されたら断れない。
けど…やっぱここは……。
「望むところよっ!!」
「おーーい!!」
勢いよく立ち上がったのは言わずもがな香蓮だ。何故かやる気に満ち溢れている。なんでお前が答えるんだ!
「わたしが凛のマネージャーだからよ!」
「だからよじゃねーわ! いつからだ!!」
「うるさい黙ってて!! ちょっとそこのチビ! さっきから黙ってたら調子に乗って…いい? 凛は私のなんだから付きまとわないで!!」
「いつからお前のになった?」
「そうですよ香蓮さん。お姉ちゃんは私のです。アナタこそ調子に乗らないで下さい」
「楓?」
急にどうした? そんなぼやきも耳に入ってないのか全員無視。もはや蚊帳の外である。私は一番の当事者だぞ。
「つつつ…付きまとってねーですよ! というかお前にだけは言われたくないです!」
それを聞いて意地悪く香蓮が笑った。良い予感がしないのは当たる前兆だろう。
「ははーん。じゃあこの勝負で負けたら二度と凛にちょっかい出さないでちょうだい! わたしも凛も迷惑してるんだからっ!」
「の…望むところです! おい如月凛! 首洗って待ってろです!! 勝ったら何でも言うこと聞いて貰うですから!!」
捨て台詞と共に消えていく柚子と申し訳なさそうに去っていく空手部の面々。それを香蓮が仁王立ちで見送っている。
「さあみんな! 力を合わせて倒すわよ。リレーはチームワークが大事なんだから!」
「どの口が言うんだ!!」
私は香蓮の頭をひっぱたく。さすがの楓も呆れている。
はあ…また面倒事を起こしてくれちゃって。
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